不動産の取引(全44問中16問目)

No.16

民法における不動産の賃貸借に関する次の記述のうち、最も適切なものはどれか。
2021年1月試験 問34
  1. 個人が、建物の賃借人の賃貸人に対する債務について個人根保証契約を締結するにあたっては、保証人が支払の責任を負う金額の上限となる極度額を書面により定めなければ、その効力が生じない。
  2. 敷金を支払っている建物の賃借人は、賃貸借期間中において、賃貸人に対し、その敷金を未払賃料に充当することを請求することができる。
  3. 敷金を受け取っている建物の賃貸人は、賃貸借の終了時、賃借人から賃貸物の返還を受ける前に、賃借人に対し、その受け取った敷金の額から賃借人の賃貸人に対する債務の額を控除した残額を返還しなければならない。
  4. 建物の賃借人は、賃借物に通常の使用および収益によって生じた損耗や経年変化による損傷が生じた場合、賃貸借の終了時、その損傷の原状回復をする義務を負う。

正解 1

問題難易度
肢151.7%
肢211.4%
肢326.3%
肢410.6%

解説

  1. [適切]。根保証契約というのは、賃貸借契約の保証人のように一定範囲の取引で生じる不特定多数の債務とその利息や損害賠償金等を保証することを約する契約です。普通の保証契約とは保証債務が特定されていない点で異なります。
    改正民法が適用される2020年4月以降、新たに個人が根保証契約をするときには、極度額(支払い上限額)の定めが必要となりました。極度額を定めなければ個人根保証契約はその効力を生じません(民法465条の2)。
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  2. 不適切。これまで敷金は判例法理として定義されていたものでしたが、民法改正で以下のように明文化されました(民法622条の2)。
    「いかなる名目によるかを問わず、賃料債務その他の賃貸借に基づいて生ずる賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務を担保する目的で、賃借人が賃貸人に交付する金銭をいう」
    未払賃料がある場合、賃貸人は敷金をその債務に充当することができますが、賃借人からこれを請求することはできません(民法622条の2第2項)。
  3. 不適切。賃借人の敷金返還請求権は、以下の2つのいずれかに至ったときに生じます。
    1. 賃貸借契約が終了し、かつ、賃貸物の返還を受けたとき
    2. 賃借権が適法に譲渡されたとき
    よって、賃貸物が返還されていないうちは、賃借人に敷金残額を返還する義務はありません。判例法理となっていた事項が民法改正で明文化された形です(民法622条の2第1項1号)。
  4. 不適切。賃借人は賃借物を返還する際に原状回復する義務を負います。ただし、通常の使用収益をした際の損耗や経年劣化については賃貸人の負担となるので、賃借人はその限度で原状回復義務を免れます。なぜなら通常損耗は賃料に織込み済と考えられるからです。これも判例法理となっていた事項が民法改正で明文化された形です(民法621条)。
したがって適切な記述は[1]です。