FP1級過去問題 2023年9月学科試験 問32

問32

法人税における貸倒損失に関する次の記述のうち、最も不適切なものはどれか。なお、各選択肢において、ほかに必要とされる要件等はすべて満たしているものとする。
  1. 取引先V社に対して有している売掛金600万円について、V社は債務超過の状態が数年間継続しており、事業好転の見通しもなく、その回収が困難であると認められる場合、当該売掛金について担保物があるときは、その担保物を処分した後でなければ貸倒れとして損金経理をすることはできない。
  2. 取引先W社に対して有している貸付金800万円について、W社は債権者集会の協議決定で合理的な基準による債務者の負債整理が行われ、500万円が切り捨てられることになった場合、当該切り捨てられることになった500万円が貸倒損失として認められる。
  3. 取引先X社に対して有している貸付金400万円について、X社との取引を停止した時以後1年以上経過した場合、当該貸付金の額から備忘価額を控除した残額を貸倒れとして損金経理をすることができる。
  4. 遠方に所在する取引先Y社とZ社(この2社の所在地は同一市内である)について、再三の支払の督促にもかかわらず、事業年度末現在で弁済がなされていない売掛金が、Y社は5万8,000円、Z社は4万円ある場合、その取立てに要する旅費等が10万円かかると見込まれるときは、当該売掛金残高から備忘価額を控除した97,998円が貸倒損失として認められる。

正解 3

問題難易度
肢18.3%
肢210.2%
肢364.4%
肢417.1%

解説

法人税の計算において貸倒損失を計上できるのは、下記に該当する場合に限られています(法基通9-6)。
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  1. 適切。貸倒れとなった金銭債権について担保物があるときは、それを処分した後でなければ貸倒れとして損金経理をすることはできません。
    取引先B社に対して貸付金200万円を有しているが、B社の債務超過の状態が相当期間継続し、事業好転の見通しもなく、その貸付金の弁済を受けることができないと認められるため、口頭により貸付金の全額を免除する旨をB社に申し出た。この場合、債務免除をした金額の全額が貸倒損失として認められる。2021.5-32-2
    取引先X社に対して、貸付金300万円を有しているが、X社は債務超過の状態が数年間継続しており、事業好転の見通しもないため、その回収が困難であると認められる。そのため、この貸付金の全額を免除する旨をX社に書面により通知した場合、通知額の300万円全額が貸倒損失として認められる。2015.1-31-1
    取引先V社に対して、売掛金400万円を有しているが、V社は債務超過の状態が数年間継続しており、事業好転の見通しもないため、その回収が困難であると認められる。ただし、この売掛金について担保物(200万円)があるときは、その担保物を処分してからでなければ貸倒損失として損金の額に算入できない。2015.1-31-4
  2. 適切。債権者集会の協議で切り捨てられた債権の額は、その全額を貸倒損失として損金経理することができます。よって、500万円が貸倒損失として認められます。
  3. [不適切]。回収が困難となったのは売掛金ではなく貸付金なので、貸倒損失とすることはできません。継続的な取引先との取引の停止後、弁済がないまま1年以上経過した場合に、貸倒損失として経理処理することができるのは売掛債権に限られます。
    継続的な取引を行っていた取引先C社に対して、貸付金500万円を有しているが、C社の支払能力が悪化し、貸付金の弁済がなされないまま、取引を停止してから1年以上が経過した。この場合、貸付金の額から備忘価額を控除した残額が貸倒損失としてその事業年度の損金の額に算入される。2022.1-30-3
    継続的な取引を行っていた取引先C社に対して貸付金400万円を有しているが、C社の資産状況、支払能力等が悪化したためにC社との取引を停止し、貸付金の回収ができないまま取引を停止してから1年以上が経過した。この場合、貸付金400万円から備忘価額を控除した残額が貸倒損失として認められる。2019.1-32-3
    継続的な取引を行っていた取引先C社に対して貸付金200万円を有しているが、C社の資産状況、支払能力等が悪化したためにC社との取引を停止し、貸付金の回収ができないまま取引を停止してから1年以上が経過した。この場合、貸付金200万円から備忘価額を控除した残額が貸倒損失として認められる。2015.10-30-3
  4. 適切。同一地域の取引先に対して有する売掛金の合計が、その取立費用よりも少なく、支払いを催促しても弁済がない場合、売掛金の合計から備忘価額1円を差し引いた額を貸倒損失として損金経理することができます。備忘価額は帳簿に売掛金の存在を残すためのものなので、売掛金ごとに1円を控除します。売掛金の合計は9万8,000円なので、1円×2社=2円控除後の金額は97,998円です。
    遠方にある取引先A社に対して売掛金5万円を有しているが、再三支払の督促をしても弁済がなされず、また取立てに要する旅費等が10万円程度かかると見込まれ、同一地域に他の債務者はいない。この場合、売掛金5万円から備忘価額を控除した残額が貸倒損失として認められる。2021.5-32-1
    遠方に所在する取引先Z社とW社(この2社の所在地は同一市内である)の売掛金について、Z社は4万8千円、W社は4万円の残高があるが、再三の支払の督促にもかかわらず、事業年度末現在で弁済がなされていない。遠方により取立費用は10万円程度かかると見込まれるため、売掛金残高の合計8万8千円が貸倒損失として認められる。2015.1-31-3
したがって不適切な記述は[3]です。