FP1級過去問題 2016年9月学科試験 問50

問50

会社法における特別支配株主の株式等売渡請求制度(以下、「本制度」という)に関する次の記述のうち、最も不適切なものはどれか。
  1. 本制度により、発行済株式総数の3分の2以上を有する株主は、発行会社の承認を受けることにより、他の株主全員に対し、その有する株式の全部を自己に売り渡すことを請求することができる。
  2. 株式売渡請求に係る承認をした発行会社は、取得日の20日前までに、当該承認をした旨、売渡株式の買取価格または算定方法、取得日等を売渡株主に通知し、株式売渡請求をした特別支配株主は、原則として、当該取得日に売渡株式の全部を取得する。
  3. 本制度により株式売渡請求を受けた株主は、株式の買取価格が発行会社の財産の状況等に照らして著しく不当な場合で、不利益を受けるおそれがあるときは、特別支配株主に対し、当該請求に係る株式の取得をやめることを請求することができる。
  4. 発行会社が定款に株式譲渡制限を設けている場合、本制度による株式売渡請求に係る譲渡制限株式の取得については、当該株式の取得に際して必要とされる承認があったものとみなされる。

正解 1

問題難易度
肢146.6%
肢218.8%
肢315.8%
肢418.8%

解説

株式会社の議決権の10分の9以上を有する株主(特別支配株主)は、対象会社の他の少数株主等に対し、その保有する株式や新株予約権の全部を売り渡すよう請求することができます。これが「特別支配株主の株式等売渡請求制度」です。

本制度は会社の買収において使われることを想定しています。会社の買収は、①公開買付けで対象会社の支配権を得られるだけの株式を取得する、②株主総会でキャッシュ・アウト(対価を払って株式を買い取ることで少数株主を追い出す)を決議するという2段階で行われることが多いです。しかし、9割の議決権を有している場合には株主総会の帰結が決まっているも同然なので、②の株主総会招集の手間を省いて簡略的にキャッシュ・アウトができるようにしたのが本制度の趣旨です(会社法179条~179条の10)。
  1. [不適切]。特別支配株主とは、定款でそれを上回る数の定めのある場合を除き、総株主の議決権の10分の9以上を有する株主を指します。本肢は「3分の2以上」としているので誤りです。
  2. 適切。株式等売渡請求は、特別支配株主が対象会社に対して所定の事項を通知して承認を求めることから始まります。当該通知を承認した対象会社は、取得日の20日前までに売渡株主等に対して、承認した旨、特別支配株主の名前、取得日、対価の額、算定方法等その他所定の事項を通知しなければなりません。その後撤回等がなければ、定めた取得日に特別支配株主は売渡株式等の全部を取得することになります。
  3. 適切。売渡請求を受けた株主等は、売渡請求が法令に違反する、所定の手続きを経ていない、対価となる金銭が著しく不当などの理由で、不利益を受けるおそれのあるときは、特別支配株主に対し、株式等売渡請求に係る売渡株式等の全部の取得をやめることを請求することができます。
  4. 適切。売渡株主等が譲渡制限株式等(株式の譲渡による取得に会社の承認が必要な株式)が含まれていたときには、特別支配株主が株式を取得することについての承認があったとみなされます。売渡請求の手続きには会社が当該請求を承認するプロセスがあるので、さらに承認を得るのは冗長だからです。
したがって不適切な記述は[1]です。