FP1級過去問題 2020年1月学科試験 問50

問50

会社法における特別支配株主の株式等売渡請求制度(以下、「本制度」という)に関する次の記述のうち、最も不適切なものはどれか。
  1. 本制度における特別支配株主とは、株式会社の総株主の議決権の10分の9(これを上回る割合を当該株式会社の定款で定めた場合はその割合)以上を有する株主とされる。
  2. 特別支配株主は、本制度による所定の手続を経ることによって、他の株主が有する対象会社の株式を、他の株主の承諾の有無にかかわらず、金銭を対価として取得することができる。
  3. 取締役会設置会社である対象会社が本制度による株式売渡請求に係る承認をする場合は、特別支配株主による株式売渡請求があってから3週間以内に株主総会を招集して承認の決議を得なければならない。
  4. 株式売渡請求に係る承認をした対象会社は、当該承認をした旨、売渡株式の買取価格、取得日等を取得日の20日前までに売渡株主に対して通知し、株式売渡請求をした特別支配株主は、原則として、その取得日に売渡株式の全部を取得する。

正解 3

問題難易度
肢111.5%
肢218.4%
肢356.3%
肢413.8%

解説

株式会社の議決権の10分の9以上を有する株主(特別支配株主)は、対象会社の他の少数株主等に対し、その保有する株式や新株予約権の全部を売り渡すよう請求することができます。これが「特別支配株主の株式等売渡請求制度」です。

本制度は会社の買収において使われることを想定しています。会社の買収は、①公開買付けで対象会社の支配権を得られるだけの株式を取得する、②株主総会でキャッシュ・アウト(対価を払って株式を買い取ることで少数株主を追い出す)を決議するという2段階で行われることが多いです。しかし、9割の議決権を有している場合には株主総会の帰結が決まっているも同然なので、②の株主総会招集の手間を省いて簡略的にキャッシュ・アウトができるようにしたのが本制度の趣旨です(会社法179条~179条の10)。
  1. 適切。特別支配株主とは、定款でそれを上回る数の定めのある場合を除き、総株主の議決権の10分の9以上を有する株主を指します。
  2. 適切。議決権の10分の9以上を有する特別支配株主は、所定の手続きを経ることで、他の少数株主が所有する株式等の全部を当該株主等の承諾なしに取得することができます。
  3. [不適切]。本制度では、特別支配株主が行う株式等売渡請求について対象会社に承認を求めるプロセスがあります。この会社の承認は、取締役会設置会社にあっては取締役会の決議による必要があります(取締役会がない会社では代表取締役の承認)。そもそも株主総会を回避するための制度なので、株主総会の決議が必要では本末転倒です。
  4. 適切。株式等売渡請求は、特別支配株主が対象会社に対して所定の事項を通知して承認を求めることから始まります。当該通知を承認した対象会社は、取得日の20日前までに売渡株主等に対して、承認した旨、特別支配株主の名前、取得日、対価の額、算定方法等その他所定の事項を通知しなければなりません。その後撤回等がなければ、定めた取得日に特別支配株主は売渡株式等の全部を取得することになります。
    株式売渡請求に係る承認をした発行会社は、取得日の20日前までに、当該承認をした旨、売渡株式の買取価格または算定方法、取得日等を売渡株主に通知し、株式売渡請求をした特別支配株主は、原則として、当該取得日に売渡株式の全部を取得する。2016.9-50-2
したがって不適切な記述は[3]です。