FP1級 2018年1月 応用編 問54

【この問題にはが用意されています。読んでから回答してください。】
 Aさん(40歳)は、これまで株式や投資信託を購入した経験はないが、将来に向けた資産形成のため、上場株式への投資を行いたいと考えている。
 Aさんは、株式投資を始めるにあたって、短期の売買は望まず、株式の発行企業の財務分析を行ったうえで、長期的なスタンスで投資したいと考えている。具体的には、X社の株式に興味を持っており、下記の〈X社の財務データ〉を参考にして投資を決定したいと思っている。
 そこで、Aさんは、ファイナンシャル・プランナーのMさんに相談することにした。

〈X社の財務データ〉(単位:百万円)
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  • 上記以外の条件は考慮せず、各問に従うこと。

問54

Mさんは、Aさんに対して、株式の内在価値(理論株価)について説明した。《設例》の〈X社の財務データ〉に基づき、Mさんが説明した以下の文章の空欄①~④に入る最も適切な語句または数値を、解答用紙に記入しなさい。なお、(予想)配当金額は、実績値と同額と仮定すること。

 「『配当割引モデル』では、株式の内在価値は、将来受け取る配当の現在価値の総和として計算されます。したがって、今後、一定の金額の配当を支払い続ける企業の株式の1株当たりの内在価値は、1株当たり(予想)配当金額を期待()率で除する配当割引モデルによって算出することができます。たとえば、X社株式に対する期待()率が4.00%であるとすると、2023年3月期におけるX社株式の1株当たりの内在価値は、()円と計算されます。
 また、長期的には配当金総額と利益総額が一致して定率の成長をするという前提のもとで株式の内在価値を求める『定率成長モデル』という考え方もあります。『定率成長モデル』では、『配当割引モデル』の算式を基に、期待成長率を加味して株式の内在価値を算出します。たとえば、X社株式に対する期待()率が4.00%、期待成長率が1.50%であるとすると、2023年3月期におけるX社株式の1株当たりの内在価値は、()円と計算されます。なお、期待成長率には、『ROE×(1-())』の算式で算出されるサスティナブル成長率を代用することができます」
 

正解 

① 利子(率)
② 3,125(円)
③ 5,000(円)
④ 配当性向

分野

科目:C.金融資産運用
細目:5.株式投資

解説

配当割引モデルは、ある株式から将来にわたって受けとる配当の総額が株式の実質的な価値だと考え、配当額を期待利子率で現在価値に割り引くことによって、その時点における株式の理論株価を計算するモデルです。定額配当モデルや定率配当モデルなどの考え方があります。
定額配当モデル(ゼロ成長モデル)
配当額が毎年一定であると仮定したモデル。1株当たり配当金額を投資家の期待利子率(利回り)で除して求める
●定額配当モデルの式 1株当たり配当金額期待利子率
定率成長モデル
配当額が毎年一定の割合で増加していくと仮定したモデル。1株当たり配当金額を「投資家の期待利子率(利回り)-成長率」で除して求める
●定率成長モデルの式 1株当たり配当金額(期待利子率-成長率)
〔①について〕
配当割引モデルでは、配当額を現在価値に割り引く際の割引率として、投資家の期待利子率(利回り)を用います。
よって、正解は利子(率)となります。

〔②について〕
"一定の金額の配当を支払い続ける"とあるので定額配当モデルを用います。定額配当モデルは、1株当たり配当金額を期待利子率で除して求めます。2024年3月期のX社株式の1株当たり配当金額は、配当金総額と発行済株式数より「80,000÷640=125円」、期待利子率を4%とすると、1株当たりの内在価値は、

 125円÷4%=125円÷0.04=3,125円

よって、正解は3,125(円)となります。

〔③について〕
定率成長モデルは、1株当たり配当金額を「期待利子率-成長率」で除して求めます。2024年3月期のX社株式の1株当たり配当金額は②で求めた125円、期待利子率を4%、期待成長率を1.5%とすると、1株当たりの内在価値は、

 125円4%-1.5%125円2.5%125円0.025=5,000円

よって、正解は5,000(円)となります。

〔④について〕
外部資金調達を行わずに内部留保の再投資のみで実現可能な成長率を「サスティナブル成長率」といい、配当割引モデルの期待成長率に代用することができます。サスティナブル成長率は、以下の算式で求めます。

 サスティナブル成長率(%)=内部留保率×自己資本利益率×100

自己資本利益率=ROE、内部留保率は「1-配当性向」で表せるので、④に当てはまるのは配当性向とわかります。
よって、正解は配当性向となります。