FP1級 2018年1月 応用編 問53

【この問題にはが用意されています。読んでから回答してください。】
 X株式会社(以下、「X社」という)に勤務するAさん(59歳)は、妻Bさん(64歳)との2人暮らしである。Aさんは、先日、親の介護のために休業を予定している同僚から、介護休業に係る雇用保険からの給付があることを聞き、それについて詳しく知りたいと思っている。
 また、X社は65歳定年制を採用しており、Aさんは65歳になるまでX社に勤務する予定であるが、今後、自分に介護が必要となった場合における公的介護保険からの給付や、自分が死亡した場合に妻Bさんに支給される公的年金制度の遺族給付についても知りたいと思っている。
 そこで、Aさんは、ファイナンシャル・プランナーのMさんに相談することにした。Aさんの家族に関する資料は、以下のとおりである。

〈Aさんの家族に関する資料〉
  1. Aさん(本人)
    • 1958年5月10日生まれ
    • 公的年金の加入歴
      1978年5月から1981年3月までの大学生であった期間(35月)は、国民年金に任意加入していない。
      1981年4月から現在に至るまで厚生年金保険の被保険者である。
    • 全国健康保険協会管掌健康保険の被保険者である。
    • 1981年4月から現在に至るまで雇用保険の一般被保険者である。
  2. Bさん(妻)
    • 1953年1月30日生まれ
    • 公的年金の加入歴
      1971年4月から1983年3月まで厚生年金保険の被保険者である(基金の加入歴なし)。
      1983年4月から1986年3月までの間、国民年金に任意加入していない。
      1986年4月から2012年12月まで国民年金の第3号被保険者である。
    • 現在、特別支給の老齢厚生年金を受給している。
    • Aさんが加入する健康保険の被扶養者である。
  3. 子ども(2人)
    • 長男と長女がおり、いずれも結婚して独立している。
  • 妻Bさんは、Aさんと同居し、現在および将来においても、Aさんと生計維持関係にあるものとする。
  • Aさんと妻Bさんは、現在および将来においても、公的年金制度における障害等級に該当する障害の状態にないものとする。
  • 上記以外の条件は考慮せず、各問に従うこと。

問53

仮に、Aさんが2018年1月31日で死亡し、妻Bさん(65歳)が遺族厚生年金の受給権を取得した場合、妻Bさんが受給することができる遺族厚生年金について、次の①および②に答えなさい。
計算にあたっては、以下の〈条件〉と〈資料〉の計算式を利用し、年金額は、2017年度価額(本来水準による価額)に基づいて計算するものとする。また、解答用紙には、〔計算過程〕を示し、〈答〉は円単位とし、年金額の端数処理は円未満を四捨五入すること(①については、解答用紙の〔計算過程〕欄に〈資料〉の(ⅰ)の額および(ⅱ)の額をいずれも記入すること)。
なお、〈資料〉の「○○○」「□□□」「a~f」は、問題の性質上、伏せてある。

  1. 遺族厚生年金の基本年金額(支給停止分が控除される前の額)はいくらか。
  2. 遺族厚生年金として実際に支給される額(支給停止分が控除された後の額)はいくらか。
〈条件〉
  1. Aさんに関する条件
    • 総報酬制導入前の厚生年金保険の被保険者期間:264月
    • 総報酬制導入前の平均標準報酬月額:328,000円
    • 総報酬制導入後の厚生年金保険の被保険者期間:178月
    • 総報酬制導入後の平均標準報酬額:492,000円
    ※平均標準報酬月額、平均標準報酬額は2017年度再評価率による額
  2. 妻Bさんに関する条件(65歳到達時点、本来水準の額による2017年度価額)
    • 老齢厚生年金
      基本年金額(報酬比例部分の額+経過的加算額):163,580円
    • 老齢基礎年金の額:720,853円
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正解 

① 900,684(円)
(328,000円×7.1251,000×264月+492,000円×5.4811,000×178月)×34
=822,729円(円未満四捨五入)
822,729円+77,955円=900,684円
900,684円×23+163,580円×12=682,246円
900,684円>682,246円 ∴900,684円
② 737,104(円)
900,684円-163,580円=737,104円

分野

科目:A.ライフプランニングと資金計画
細目:5.公的年金

解説

〔①について〕
Aさんが厚生年金の被保険者であるときに死亡した場合なので「短期要件」に該当します。短期要件に該当する場合には、遺族厚生年金の計算に当たり、300月のみなし計算の適用があり、中高齢寡婦加算額について被保険者期間の要件がありません(本問では関係ありません)。

遺族厚生年金の年金額は、死亡した者の厚生年金の加入記録を基に計算した報酬比例部分の額の4分の3です。報酬比例部分の額は、次式で算出される額の合計になります。
  • 平均標準報酬月額×7.1251,000×総報酬制導入前の被保険者期間月数
    ※2003年3月以前
  • 平均標準報酬月額×5.4811,000×総報酬制導入後の被保険者期間月数
    ※2003年4月以降
厚生年金被保険者期間は総報酬制導入前が264月、総報酬制導入後が178月なので、報酬比例部分の額は、

 328,000円×7.1251,000×264月+492,000円×5.4811,000×178月
=328円×7.125×264月+492円×5.481×178月
=616,968円+480,004.0…円=1,096,972.0…円

この時点で端数処理すると誤差が生じる可能性があるので、4分の3を乗じた後に四捨五入をすることに注意です。

 1,096,972.0…円×34=822,729.0…円
(円未満四捨五入)822,729円

経過的寡婦加算額は、中高齢寡婦加算額の支給対象者となっている1956年4月1日以前生まれの妻が、65歳になった以降に中高齢寡婦加算額に代えて支給されるものです。1985年(昭和60年)までは第3号被保険者制度が存在せず、会社員の妻は任意加入であったため、それまでもらっていた中高齢寡婦加算額によりも65歳以降の老齢基礎年金の額が少なくなってしまうことがあります。これを防ぐ趣旨で、老齢基礎年金の額と中高齢寡婦加算額の差額分が厚生年金から支給されます。

妻Bさんは中高齢寡婦加算額の支給対象者であり、1956年4月1日以前生まれなので、経過的寡婦加算額77,955円が支給されます。以上より、老齢厚生年金の年金額は、

 822,729円+77,955円=900,684円 … (ⅰ)

さらに、65歳以上の配偶者が受け取る遺族厚生年金は、〈資料〉および下図のように、(ⅰ)遺族厚生年金の額、(ⅱ)遺族厚生年金の額×2/3+配偶者の老齢厚生年金×1/2 のいずれか高い額となります。
本問だと(ⅱ)の額は、

 900,684円×23+163,580円×12
=600,456円+81,790円=682,246円 … (ⅱ)

なので、2つを比べて高いほうの(ⅰ)が遺族厚生年金の基本年金額となります。
よって、正解は900,684(円)です。

〔②について〕
老齢厚生年金と遺族厚生年金は併給が可能ですが、支給調整により老齢厚生年金が優先して支給され、遺族厚生年金は老齢厚生年金を上回る部分だけが支給される仕組みとなっています。このため、遺族厚生年金の基本年金額のうち、妻Bさんの老齢厚生年金に相当する額が支給停止され、実際の支給額はその残額となります。したがって、支給停止分が控除された後の額は、

 900,684円-163,580円=737,104円

よって、正解は737,104(円)です。