FP1級過去問題 2023年1月学科試験 問24

問24

行動ファイナンスに関する一般的な次の記述のうち、最も適切なものはどれか。
  1. プロスペクト理論の価値関数は、横軸を利益・損失、縦軸を価値(効用)としたグラフ上において利益曲線が損失曲線よりも傾きが急であるS字型で表され、利益と損失が同じ金額であれば、利益のほうが価値(効用)に及ぼす影響が大きいことを示している。
  2. 最初に提示された価格などの値は、その値が妥当な水準であれば、その後の判断に強く影響を及ぼすが、妥当な水準から大きく外れている場合、その後の判断に影響を与えないとされる。
  3. 投資家がある選択をする場合、これから支出する費用と得られる便益を考慮し、選択前に既に支払っていた費用は、その選択に影響を及ぼさない傾向があるとされる。
  4. 投資家は、価値(効用)を判断するにあたって、価値(効用)の絶対的な水準よりも利益と損失の判断を分ける基準点からの変化の大きさによって価値(効用)を決定する傾向があるとされる。

正解 4

問題難易度
肢18.1%
肢27.2%
肢318.0%
肢466.7%

解説

  1. 不適切。プロスペクト理論は、従来の効用理論を発展させ、①利得よりも損失を強く感じる、②効用は参照点からの変化によって生じる、という人間の性質を理論化したものです。参照点からのプラス・マイナスの絶対量が同じであっても、損失の方が心理的価値の減少の程度は大きいため、その価値関数のグラフは、損失部分の曲線の方が急な傾きになります。利得と損失の感じ方が異なるので、人間は、利得を得られる場面ではリスク回避的な行動をとり、損失が出る場面ではリスク追及的な行動をとる傾向があります。
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  2. 不適切。人間は未知の数値を見積もりする前に何らかの値を提示されると、その値がルーレットの出目のような全く関係のないものであっても、それを起点にその後の判断をしてしまうという認知バイアスがあり「アンカリング効果」と呼ばれます(アンカーとは碇のこと)。最初から1万円で販売している商品と、定価2万円の商品が半値の1万円で売られているのでは、同じ価格でも後者のほうが割安に感じますよね。定価に意味はなくても人間はその値に引っ張られてしまうのです。
  3. 不適切。何か選択をする前に時間や費用を投資していた場合、その支払ったコストを回収できるわけでもないのに"無駄にしたくない"という心理が働き、今後得られる便益が支出する費用を下回っていても投資を続けてしまうことがあります。このように、これまでに投資した費用の有無が、将来の意思決定に影響を与える効果を「サンクコスト効果」といいます(サンクコストとは埋没費用のこと)。赤字事業をいつまでも続けてしまう、つまらない映画でも代金が無駄になるから最後まで見続けてしまう、などがサンクコスト効果の例です。
  4. [適切]。同じ100万円の年収アップでも、現在の年収が300万円の人と2,000万円の人では得られる効用が大きく異なります。一方、年収が10%アップという変化であれば、どの年収の人も同じ価値を感じます。このように、人間は絶対的な水準ではなく、基準点からの変化幅によって効用を判断する傾向があります。
したがって適切な記述は[4]です。