FP1級 2019年1月 応用編 問57

【この問題にはが用意されています。読んでから回答してください。】
 製造業を営むX株式会社(資本金30,000千円、青色申告法人、同族会社かつ非上場会社で株主はすべて個人、租税特別措置法上の中小企業者等に該当する。以下、「X社」という)の2025年3月期(2024年4月1日~2025年3月31日。以下、「当期」という)における法人税の確定申告に係る資料は、以下のとおりである。

〈資料〉
  1. 減価償却に関する事項
    当期における減価償却費は、その全額について損金経理を行っている。このうち、機械装置の減価償却費は4,800千円であるが、その償却限度額は3,900千円であった。一方、工具器具備品の減価償却費は6,400千円で、その償却限度額は6,700千円であった。なお、この工具器具備品の前期からの繰越償却超過額はない。
  2. 役員退職金に関する事項
    当期において、退任した取締役のAさんに対して役員退職金を70,000千円支給し、損金経理を行っている。役員退職金の税法上の適正額は、最終報酬月額1,000千円、役員在任期間10年、功績倍率3.0倍として功績倍率方式により算定した金額が妥当であると判断されたため、支給額のうち功績倍率方式により計算された適正額を上回る部分については、別表四において自己否認を行うことにした。
  3. 受取配当金に関する事項
    当期において、上場会社であるY社から、X社が前期から保有しているY社株式に係る配当金1,500千円(源泉所得税控除前)を受け取った。なお、Y社株式は非支配目的株式等に該当する。
  4. 繰越欠損金に関する事項
    前々期に発生し、当期に繰り越した青色申告の繰越欠損金が29,000千円ある。なお、これ以外に繰越欠損金の当期への繰越しはない。
  5. 税額控除に関する事項
    当期における中小企業における賃上げの促進に係る税制(給与等の支給額が増加した場合の法人税額の特別控除)に係る税額控除額が1,000千円ある。
  6. 「法人税、住民税及び事業税」等に関する事項
    1. 損益計算書に表示されている「法人税、住民税及び事業税」は、預金の利子について源泉徴収された所得税額15千円・復興特別所得税額315円、受取配当金について源泉徴収された所得税額225千円・復興特別所得税額4,725円および当期確定申告分の見積納税額16,500千円の合計額16,745,040円である。なお、貸借対照表に表示されている「未払法人税等」の金額は16,500千円である。
    2. 源泉徴収された所得税額および復興特別所得税額は、当期の法人税額から控除することを選択する。
    3. 中間申告および中間納税については、考慮しないものとする
  • 上記以外の条件は考慮せず、各問に従うこと。

問57

X社の当期の〈資料〉と下記の〈条件〉に基づき、同社に係る〈略式別表四(所得の金額の計算に関する明細書)〉の空欄①~⑦に入る最も適切な数値を、解答用紙に記入しなさい。なお、別表中の「***」は、問題の性質上、伏せてある。

〈条件〉
  • 設例に示されている数値等以外の事項は、いっさい考慮しないこととする。
  • 所得の金額の計算上、選択すべき複数の方法がある場合は、X社にとって有利となる方法を選択すること。
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正解 

① 16,500,000(円)
② 900,000(円)
③ 40,000,000(円)
④ 300,000(円)
⑤ 245,040(円)
⑥ 29,000,000(円)
⑦ 50,000,000(円)

分野

科目:D.タックスプランニング
細目:10.法人税

解説

まず、会計上の利益から法人税の所得金額と納付税額を計算する大まかな流れ、別表四における加算・減算の項目を確認しておきましょう。
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〔①について〕
見積り額として当期の損益計算書に損金計上した法人税額等は、実際にはまだ支出していませんから損金不算入となります。このため、5.(1)に記載がある当期確定申告分の見積納税額16,500千円が加算対象となります。
よって、正解は16,500,000(円)です。

〔②について〕
減価償却の償却超過額とは、決算書において損金とした減価償却費の中で税法上の償却限度額を超える部分であり、税法上の損金と認められないので損金不算入となります。償却限度額は、個々の資産ごとに判断します。
1.の記載より、機械装置の償却額が限度額を超えているため、その超える「4,800-3,900=900千円」の部分が損金不算入として加算の対象となります。工具器具備品の減価償却費は限度額未満ですが、余った枠を別の資産のために使うことはできないので注意しましょう。
よって、正解は900,000(円)です。

〔③について〕
役員退職金をいくら支払うかは会社の自由ですが、不相当に高額な部分は税務調査で損金処理が否認されることがあります。損金として認められる額は個別の事情に異なりますが、実務上は功績倍率法により役員退職金の適正額を決めることが多いです。功績倍率法は、役員の退職直前給与額を基礎として、役員の法人の業務に従事した期間および役員の職責に応じた倍率を乗ずる方法により支給する金額を算定する方法です。

 役員退職金の適正額=最終報酬月額×役員在任年数×功績倍率
 ※役職により異なるが、社長は3.0倍までOKとされている

最終報酬月額が1,000千円、役員在任期間10年、功績倍率3.0倍だと、役員退職金の適正額は「1,000千円×10年×3.0=30,000千円」です。X社は実際に支払った額35,000千円のうち適正額を超える部分「70,000千円-30,000千円=40,000千円」を自己否認するので、この額が損金不算入として加算対象となります。
よって、正解は40,000,000(円)です。

〔④について〕
受取配当金は、法人税の二重課税を避ける観点から以下の区分に従い全部または一部が益金不算入となります。
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Y社株式は非支配目的株式等ですから、配当等の額の20%相当額が益金不算入となります。Y社に係る配当金は1,500千円のため、受取配当等の益金不算入額は、

 1,500千円×20%=300千円

よって、正解は300,000(円)です。

〔⑤について〕
法人が支払いを受ける利子等、配当等などについて源泉徴収された所得税および復興特別所得税額が該当します。5.(1)に記載では預金の利子について源泉徴収された所得税額15千円・復興特別所得税額315円、受取配当金について所得税額225千円・復興特別所得税額4,725円があるため、法人税額から控除される所得税額は、

 15,000円+315円+225,000+4,720円=245,040円

よって、正解は245,040(円)となります。

〔⑥、⑦について〕
前期以前10年間に欠損金(赤字)が生じている場合、欠損金の金額を繰り越して各期の所得金額の計算上控除することができます。X社のような中小法人では、所得金額の100%まで欠損金の控除が認められるので、所得金額の計算後に繰越控除額を求めます。

〔⑥について〕
法人税の所得金額は、当期利益の額に加算額を加え減算額を減らした「仮計」に、"法人税額から控除される所得税額"を加え、"欠損金又は災害損失金等の当期控除額"を控除した額になります。
所得税額は最終的に法人税額から控除されますが、会計上では租税公課等として費用処理されているので一旦は所得金額に加算します。欠損金等は過年度分の欠損金額の繰越控除により損金となる額ですから所得金額から差し引きます。
加算の合計額
16,500,000+900,000+40,000,000=57,400,000円
減算の合計額
300,000円
所得金額
21,654,960+57,400,000-300,000+245,040-0=79,000,000円
繰越欠損金が所得金額未満なので、29,000千円全額を所得金額から控除できます。この控除後の金額がX社の所得金額となります。

 79,000,000円-29,000,000円=50,000,000円

よって、⑥は29,000,000(円)、⑦は50,000,000(円)が正解です。