FP1級 2022年1月 応用編 問53(改題)

【この問題にはが用意されています。読んでから回答してください。】
 X株式会社(以下、「X社」という)に勤務するAさん(59歳)は、2022年9月に満60歳となり定年を迎える。Aさんは、大学卒業後、X社に入社し、以後、現在に至るまで同社に勤務している。Aさんは、X社の継続雇用制度を利用して65歳まで働く予定としており、可能であれば70歳まで働きたいと思っている。
 妻Bさん(59歳)は、高校卒業後、X社に入社し、26歳のときに同僚であったAさんと結婚した。2人の子が独立した5年前からパートタイマーとして、スーパーマーケットで勤務している。先日、惣菜部門のパートリーダーに抜擢され、副店長からシフトを増やしてほしいと頼まれている。妻Bさんは、仕事に生きがいを感じており、Aさんと同様に、70歳まで働きたいと思っている。
 Aさん夫妻は、今後の生活設計について、ファイナンシャル・プランナーのMさんに相談することにした。Aさんの家族に関する資料は、以下のとおりである。

〈Aさんの家族に関する資料〉
  1. Aさん(本人)
    • 1962年9月19日生まれ
    • 公的年金の加入歴
      1982年9月から1985年3月までの大学生であった期間(31月)は国民年金に任意加入していない。
      1985年4月から現在に至るまで厚生年金保険の被保険者である(厚生年金基金の加入期間はない)。
    • 全国健康保険協会管掌健康保険の被保険者である。
    • 1985年4月から現在に至るまで雇用保険の一般被保険者である。
    【X社の継続雇用制度の概要】
    • 1年契約の嘱託雇用で1日7時間(週35時間)勤務
    • 賃金月額は60歳到達時の60%(月額27万円)で賞与はなし
  2. Bさん(妻)
    • 1962年5月17日生まれ
    • 公的年金の加入歴
      1981年4月から1988年4月まで厚生年金保険の被保険者である。
      1988年5月から現在に至るまで国民年金の第3号被保険者である。
    • Aさんが加入する健康保険の被扶養者である。
    【妻Bさんのパート勤務の概要】
    • 週18時間のパート勤務、年収95万円
    • 妻Bさんの勤務先は、任意特定適用事業所に該当する。
  • 妻Bさんは、Aさんと同居し、現在および将来においても、Aさんと生計維持関係にあるものとする。
  • Aさんと妻Bさんは、現在および将来においても、公的年金制度における障害等級に該当する障害の状態にないものとする。
  • 上記以外の条件は考慮せず、各問に従うこと。

問53

Mさんは、Aさん夫妻に対して、65歳以後の公的年金制度からの老齢給付および短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用について説明した。Mさんが説明した以下の文章の空欄①~⑥に入る最も適切な語句または数値を、解答用紙に記入しなさい。

  1. 〈在職老齢年金〉
     「Aさんが、65歳以後も引き続き厚生年金保険の被保険者としてX社に勤務し、かつ、65歳から老齢厚生年金を受給する場合、Aさんの老齢厚生年金の報酬比例部分の額に基づく基本月額と総報酬月額相当額との合計額が()万円(支給停止調整額、2024年度価額)以下のときは調整が行われず、老齢厚生年金は全額支給されます」
  2. 〈妻Bさんが受給する老齢基礎年金への加算〉
     「Aさんが65歳から老齢厚生年金を受給するようになると、妻Bさんの老齢基礎年金には、()の額が加算されます。妻Bさんが()を受けるためには、老齢基礎年金額加算開始事由該当届を提出する必要があります」
  3. 〈繰下げ支給〉
     「Aさん夫妻が希望すれば、66歳以後、老齢基礎年金および老齢厚生年金の繰下げ支給の申出をすることができます。仮に、Aさんが68歳0カ月で老齢基礎年金の繰下げ支給の申出をした場合の増額率は()%となります。なお、妻Bさんが老齢基礎年金の支給を繰り下げた場合、老齢基礎年金に加算される()の額は増額されません」
  4. 〈短時間労働者に対する健康保険および厚生年金保険の適用〉
     「1週間の所定労働時間および1カ月の所定労働日数が通常の労働者の()以上になった場合、健康保険および厚生年金保険の被保険者となります。また、妻Bさんがパートタイマーとして勤務している現在の事業所においては、1週間の所定労働時間および1カ月の所定労働日数が通常の労働者の()未満であっても、1週間の所定労働時間が()時間以上であること、雇用期間が2カ月を超えて見込まれること、賃金の月額が()円(賞与、残業代、通勤手当等を除く)以上であること、学生でないことの要件をすべて満たした場合、妻Bさんは健康保険および厚生年金保険の被保険者となります」
万円
 
 
時間

正解 

① 50(万円)
② 振替加算
③ 25.2(%)
④ 4分の3
⑤ 20(時間)
⑥ 88,000(円)

分野

科目:A.ライフプランニングと資金計画
細目:4.社会保険

解説

〔①について〕
2024年度における支給停止調整開始額は50万円です。この額は毎年4月1日に改定されます。
厚生年金の被保険者として勤務しながら老齢厚生年金を受給している人は、基本月額と総報酬月額相当額の合計が支給停止調整開始額を超えると、在職老齢年金の仕組みにより、老齢厚生年金の一部または全部が支給停止されます。
基本月額
老齢厚生年金のうち報酬比例部分の額(繰下げによる増加分は除く)を月換算した額
総報酬月額相当額
その月の標準報酬月額と、その月以前1年間の標準賞与額の合計を月換算した額の合計額
よって、正解は50(万円)となります。

〔②について〕
妻Bさんは1966年(昭和41年)4月1日以前生まれであり、年下の配偶者であるAさんが被保険者期間20年以上の老齢厚生年金を受け取れるようになったとき、Aさんに生計を維持されているので振替加算額を受け取ることができます。振替加算額は、繰下げによる増額の対象となりません。

振替加算額は、国民年金への全員加入が始まった時点で20歳以上だった専業主婦等について、任意加入していなかった期間があることによる年金額の不足を補うための加算制度です。振替加算額は一生涯にわたり支給されます。振替加算額の支給対象となるのは1966年(昭和41年)4月1日以前生まれの人で、支給されるのは次の2パターンです。
生計を維持している配偶者が年上
加給年金額の算定対象となっていた配偶者が65歳になったとき、老齢厚生年金等を受け取っているその者の配偶者に生計を維持されている
生計を維持している配偶者が年下
65歳になった以降に配偶者が老齢厚生年金等を受け取れるようになったとき、その配偶者に生計を維持されている
本問のように、妻(夫)が老齢基礎年金の受給権を得た後に、生計を維持している夫(妻)が老齢厚生年金の受給権を得る場合には、年金事務所に「老齢基礎年金額加算開始事由該当届」を提出する義務があります。
よって、正解は振替加算(額)となります。

※老齢厚生年金等 … 被保険者期間20年以上の老齢厚生年金等、障害等級2級以上の障害厚生年金等

〔③について〕
繰下げ支給による増額率は1月当たり0.7%です。68歳到達月に繰下げを請求すると「3年=36月」だけ繰り下げたことになるので、増額率は「0.7%×36月=25.2%」です。
よって、正解は25.2(%)となります。

〔④、⑤、⑥について〕
いわゆるパートタイマー・アルバイトとして勤務する者は、1週間の所定労働時間が通常の労働者の4分の3以上または1カ月の所定労働日数が通常の労働者の4分の3以上である場合には、1日の所定労働時間にかかわらず、健康保険の被保険者となります。

また、4分の3未満であっても、厚生年金保険の被保険者が50人を超える適用事業所(特定適用事業所)に勤務し、以下の4つの要件すべてに該当する場合には被保険者となります。
  1. 週の所定労働時間が20時間以上あること
  2. 雇用期間が継続して2カ月以上見込まれること
  3. 賃金の月額が88,000円以上であること
  4. 学生でないこと
妻Bさんの勤めるスーパーマーケットは任意特定適用事業所とあります。任意特定適用事業所は従業員数が基準に満たないものの、労使合意により特定適用事業所になることを選択した事務所です。
よって、④は4分の3、⑤は20(時間)、⑥は88,000(円)となります。