FP1級 2022年1月 応用編 問54

【この問題にはが用意されています。読んでから回答してください。】
 不動産賃貸業を営むAさん(45歳)は、短期の売買は望まず、財務の安全性を重視して、長期的なスタンスで投資したいと思っている。具体的には、上場企業X社に興味があり、下記の財務データを参考にして、投資判断を行いたいと考えている。そこで、Aさんは、ファイナンシャル・プランナーのMさんに相談することにした。

〈2023年3月期のX社の財務データ等〉(単位:百万円)
b1.png./image-size:408×588
  • 決算期:2024年3月31日(木)(配当の権利が確定する決算期末)
  • 上記以外の条件は考慮せず、各問に従うこと。

問54

Mさんは、Aさんに対して、株式の内在価値(理論株価)について説明した。Mさんが説明した以下の文章の空欄①~④に入る最も適切な語句または数値を、解答用紙に記入しなさい。

  1. 「配当割引モデルでは、株式の内在価値は将来受け取る配当の現在価値の総和として計算されます。ある企業(以下、「Y社」という)のROEを12.0%、予想EPSを120円、株主の期待()率を8.0%、負債はないものとした場合において、Y社が来期以降のEPSの全額を配当すると仮定した場合、Y社の理論株価は()円になります。これをゼロ成長モデルと呼びます」
  2. 「配当金額が長期的に同じ率で成長をするという前提のもとで株式の内在価値を求める定率成長モデルという考え方もあります。来期以降、上記ⅠにおけるY社がEPSの4割を内部留保して再投資する場合(配当性向が6割の場合)、()率を期待成長率と仮定すれば、Y社の理論株価は()円になります。このケースにおいて、配当性向を上げると、()率は下がり、理論株価は低くなります」

正解 

① 利子(率)
② 1,500(円)
③ サスティナブル成長(率)
④ 2,250(円)

分野

科目:C.金融資産運用
細目:5.株式投資

解説

配当割引モデルは、ある株式から将来にわたって受けとる配当の総額が株式の実質的な価値だと考え、配当額を期待利子率で現在価値に割り引くことによって、その時点における株式の理論株価を計算するモデルです。定額配当モデルや定率配当モデルなどの考え方があります。
定額配当モデル(ゼロ成長モデル)
配当額が毎年一定であると仮定したモデル。1株当たり配当金額を投資家の期待利子率(利回り)で除して求める
●定額配当モデルの式 1株当たり配当金額期待利子率
定率成長モデル
配当額が毎年一定の割合で増加していくと仮定したモデル。1株当たり配当金額を「投資家の期待利子率(利回り)-成長率」で除して求める
●定率成長モデルの式 1株当たり配当金額(期待利子率-成長率)
〔①について〕
配当割引モデルでは、配当額を現在価値に割り引く際の割引率として、投資家の期待利子率(利回り)を用います。
よって、正解は利子(率)となります。

〔②について〕
定額配当モデルは、1株当たり配当金額を期待利子率で除して求めます。EPSは1株当たり純利益で、EPSの全額を配当するとあるので、1株当たり配当金額は120円となります。これを期待利子率8%で除して、

 120円÷8%=120円÷0.08=1,500円

よって、正解は1,500(円)となります。

〔③、④について〕
外部資金調達を行わずに内部留保の再投資のみで実現可能な成長率を「サスティナブル成長率」といい、配当割引モデルの期待成長率に代用することができます。サスティナブル成長率は、以下の算式で求めます。

 サスティナブル成長率(%)=内部留保率×自己資本利益率×100

内部留保率は「1-配当性向」で表せるので、配当性向を6割とした場合、内部留保率は40%となります。また、ⅠにおいてY社の自己資本利益率(ROE)は12%とあるので、サスティナブル成長率は、

 40%×12%=0.4×0.12=0.048=4.8%

定率成長モデルは、1株当たり配当金額を「期待利子率-成長率」で除して求めます。EPSの6割を配当すると1株当たり配当金額は「120円×60%=72円」、期待利子率は8%、期待成長率は上で求めたサスティナブル成長率4.8%とすると、1株当たりの内在価値は、

 72円8%-4.8%72円3.2%72円0.032=2,250円

よって、③はサスティナブル成長(率)、④は2,250(円)が正解となります。