FP1級 2022年1月 応用編 問57

【この問題にはが用意されています。読んでから回答してください。】
 製造業を営むX株式会社(資本金30,000千円、青色申告法人、同族会社かつ非上場会社で株主はすべて個人、租税特別措置法上の中小企業者等に該当し、適用除外事業者ではない。以下、「X社」という)の代表取締役社長であるAさん(68歳)は、専務取締役である長男Bさん(37歳)に事業を承継する準備を進めている。
 Aさんは、人間ドックの検査で重大な疾病が発見され、2024年中に3週間程度の入院をしている。また、長男Bさんは、2024年7月に取得価額6,000万円で新築マンションを取得(契約締結)し、同月中に入居した。
 なお、X社の2025年3月期(2024年4月1日~2025年3月31日。以下、「当期」という)における法人税の確定申告に係る資料および長男Bさんが取得した新築マンションに関する資料は、以下のとおりである。

〈X社の当期における法人税の確定申告に係る資料〉
  1. 減価償却費に関する事項
    当期において、3年前に取得した生産設備(当期首の帳簿価額3,500千円・耐用年数10年・償却率(定率法)0.200)について、減損損失2,000千円を計上し、300千円を減価償却費として損金経理したが、減損損失2,000千円の計上は、税務上損金の額として認められないことが判明した。
  2. 役員給与に関する事項
    当期において、X社は、Aさんから、時価10,000千円の土地を12,000千円で買い取った。なお、X社は、この土地の売買に係る事前確定届出給与に関する届出書は提出していない。
  3. 受取配当金に関する事項
    当期において、上場会社であるY社から、X社が前期から保有しているY社株式に係る配当金1,000千円(源泉所得税控除前)を受け取った。なお、Y社株式は非支配目的株式等に該当する。
  4. 賃上げ促進税制に係る税額控除に関する事項
    当期における賃上げ促進税制(給与等の支給額が増加した場合の法人税額の特別控除)に係る控除対象雇用者給与等支給増加額は1,250千円である。賃上げ促進税制の給与増加割合の上乗せ措置に加え、教育訓練費の増加による上乗せ措置の適用を受けるための要件はすべて満たしているが、子育てとの両立・女性活躍支援に係る上乗せ措置の適用を受けるための要件は満たしていない。
  5. 「法人税、住民税及び事業税」等に関する事項
    1. 損益計算書に表示されている「法人税、住民税及び事業税」は、預金の利子について源泉徴収された所得税額10千円・復興特別所得税額210円、受取配当金について源泉徴収された所得税額150千円・復興特別所得税額3,150円および当期確定申告分の見積納税額3,000千円の合計額3,163,360円である。なお、貸借対照表に表示されている「未払法人税等」の金額は3,000千円である。
    2. 当期中に「未払法人税等」を取り崩して納付した前期確定申告分の事業税(特別法人事業税を含む)は850千円である。
    3. 源泉徴収された所得税額および復興特別所得税額は、当期の法人税額から控除することを選択する。
    4. 中間申告および中間納税については、考慮しないものとする。
〈長男Bさんが取得した新築マンションに関する資料〉
取得価額
6,000万円
土地
40㎡(敷地利用権の割合相当の面積)
建物
85㎡(専有部分の床面積)
資金調達方法
自己資金1,000万円、Aさんからの資金援助の額1,000万円
銀行からの借入金4,000万円(2024年12月末の借入金残高3,980万円、返済期間25年)
留意点
長男Bさんは子育て世帯・若者夫婦世帯であり、当該マンションは、認定長期優良住宅に該当する。また、住宅借入金等特別控除の適用要件は、すべて満たしている。
  • 上記以外の条件は考慮せず、各問に従うこと。

問57

《設例》のX社の当期の〈資料〉と下記の〈条件〉に基づき、同社に係る〈略式別表四(所得の金額の計算に関する明細書)〉の空欄①~⑥に入る最も適切な数値を、解答用紙に記入しなさい。なお、別表中の「***」は、問題の性質上、伏せてある。

〈条件〉
  • 設例に示されている数値等以外の事項については考慮しないものとする。
  • 所得の金額の計算上、選択すべき複数の方法がある場合は、所得の金額が最も低くなる方法を選択すること。
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正解 

① 3,000,000(円)
② 1,600,000(円)
③ 2,000,000(円)
④ 200,000(円)
⑤ 163,360(円)
⑥ 15,000,000(円)

分野

科目:D.タックスプランニング
細目:10.法人税

解説

まず、会計上の利益から法人税の所得金額と納付税額を計算する大まかな流れ、別表四における加算・減算の項目を確認しておきましょう。
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〔①について〕
見積り額として当期の損益計算書に損金計上した法人税額等は、実際にはまだ支出していませんから損金不算入となります。このため、5.(1)に記載がある当期確定申告分の見積納税額3,000千円が加算対象となります。
よって、正解は3,000,000(円)です。

〔②について〕
減損損失は、決算時に資産の評価額を減少させて、従来の簿価との差額を評価損として企業会計上の損金に計上したものです。資産の評価益・評価損は、恣意的な利益操作を防ぐため、一定の事実が生じた場合でなければ税法上の益金・損金として容認されませんが、減価償却資産の減損損失については、例外的にその期の減価償却費に含めて損金にすることができます(法基通7-5-1)。
減損損失を合算した減価償却費は「2,000+300=2,300千円」、定率法による当期の償却費限度額は期首の簿価3,500千円に償却率0.200を乗じた「3,500千円×0.200=700千円」ですから、2,300千円のうち損金に算入できるのは700千円、残りの1,600千円は損金不算入として加算の対象となります。
よって、正解は1,600,000(円)です。

〔③について〕
税法上、法人と個人間の取引では常に適正な時価で譲渡があったものとされ、役員が利益を受けたときは役員給与として、法人が利益を受けたときには寄付金を受けたものとして処理します。
2.では、役員から時価10,000千円の建物を12,000千円で買い取っていて、役員が差額の2,000千円の利益を得ています。このとき、法人は時価の10,000千円で取得したものとして処理し、差額の2,000千円は役員給与を支払ったものとみなされます。これは定期同額給与の範囲外の給与なので、損金不算入として加算対象となります。
よって、正解は2,000,000(円)です。

〔④について〕
受取配当金は、法人税の二重課税を避ける観点から以下の区分に従い全部または一部が益金不算入となります。
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Y社株式は非支配目的株式等ですから、配当等の額の20%相当額が益金不算入となります。Y社に係る配当金は1,000千円のため、受取配当等の益金不算入額は、

 1,000千円×20%=200千円

よって、正解は200,000(円)です。

〔⑤について〕
法人が支払いを受ける利子等、配当等などについて源泉徴収された所得税および復興特別所得税額が該当します。5.(1)に記載では預金の利子について源泉徴収された所得税額10千円・復興特別所得税額210円、受取配当金について所得税額150千円・復興特別所得税額3,150円があるため、法人税額から控除される所得税額は、

 10,000円+210円+150,000+3,150円=163,360円

よって、正解は163,360(円)となります。

〔⑥について〕
法人税の所得金額は、当期利益の額に加算額を加え減算額を減らした「仮計」に、"法人税額から控除される所得税額"を加え、"欠損金又は災害損失金等の当期控除額"を控除した額になります。
所得税額は最終的に法人税額から控除されますが、会計上では租税公課等として費用処理されているので一旦は所得金額に加算します。欠損金等は過年度分の欠損金額の繰越控除により損金となる額ですから所得金額から差し引きます。
加算の合計額
3,000,000+1,600,000+2,000,000=6,600,000円
減算の合計額
850,000+200,000=1,050,000円
所得金額
9,286,640+6,600,000-1,050,000+163,360-0=15,000,000円
よって、正解は15,000,000(円)となります。