FP1級 2022年1月 応用編 問59(改題)

【この問題にはが用意されています。読んでから回答してください。】
 製造業を営むX株式会社(資本金30,000千円、青色申告法人、同族会社かつ非上場会社で株主はすべて個人、租税特別措置法上の中小企業者等に該当し、適用除外事業者ではない。以下、「X社」という)の代表取締役社長であるAさん(68歳)は、専務取締役である長男Bさん(37歳)に事業を承継する準備を進めている。
 Aさんは、人間ドックの検査で重大な疾病が発見され、2023年中に3週間程度の入院をしている。また、長男Bさんは、2023年7月に取得価額6,000万円で新築マンションを取得(契約締結)し、同月中に入居した。
 なお、X社の2024年3月期(2023年4月1日~2024年3月31日。以下、「当期」という)における法人税の確定申告に係る資料および長男Bさんが取得した新築マンションに関する資料は、以下のとおりである。

〈X社の当期における法人税の確定申告に係る資料〉
  1. 減価償却費に関する事項
    当期において、3年前に取得した生産設備(当期首の帳簿価額3,500千円・耐用年数10年・償却率(定率法)0.200)について、減損損失2,000千円を計上し、300千円を減価償却費として損金経理したが、減損損失2,000千円の計上は、税務上損金の額として認められないことが判明した。
  2. 役員給与に関する事項
    当期において、X社は、Aさんから、時価10,000千円の土地を12,000千円で買い取った。なお、X社は、この土地の売買に係る事前確定届出給与に関する届出書は提出していない。
  3. 受取配当金に関する事項
    当期において、上場会社であるY社から、X社が前期から保有しているY社株式に係る配当金1,000千円(源泉所得税控除前)を受け取った。なお、Y社株式は非支配目的株式等に該当する。
  4. 賃上げ促進税制に係る税額控除に関する事項
    当期における賃上げ促進税制(給与等の支給額が増加した場合の法人税額の特別控除)に係る控除対象雇用者給与等支給増加額は1,250千円である。賃上げ促進税制の給与増加割合の上乗せ措置に加え、教育訓練費の増加による上乗せ措置の適用を受けるための要件はすべて満たしている。
  5. 「法人税、住民税及び事業税」等に関する事項
    1. 損益計算書に表示されている「法人税、住民税及び事業税」は、預金の利子について源泉徴収された所得税額10千円・復興特別所得税額210円、受取配当金について源泉徴収された所得税額150千円・復興特別所得税額3,150円および当期確定申告分の見積納税額3,000千円の合計額3,163,360円である。なお、貸借対照表に表示されている「未払法人税等」の金額は3,000千円である。
    2. 当期中に「未払法人税等」を取り崩して納付した前期確定申告分の事業税(特別法人事業税を含む)は850千円である。
    3. 源泉徴収された所得税額および復興特別所得税額は、当期の法人税額から控除することを選択する。
    4. 中間申告および中間納税については、考慮しないものとする。
〈長男Bさんが取得した新築マンションに関する資料〉
取得価額
6,000万円
土地
40㎡(敷地利用権の割合相当の面積)
建物
85㎡(専有部分の床面積)
資金調達方法
自己資金1,000万円、Aさんからの資金援助の額1,000万円
銀行からの借入金4,000万円(2023年12月末の借入金残高3,980万円、返済期間25年)
留意点
当該マンションの取得は、特別特例取得(消費税10%)に該当し、当該マンションは、認定長期優良住宅に該当する。また、住宅借入金等特別控除の適用要件は、すべて満たしている。
  • 上記以外の条件は考慮せず、各問に従うこと。

問59

所得税における医療費控除および住宅借入金等特別控除に関する以下の文章の空欄①~⑧に入る最も適切な数値を、解答用紙に記入しなさい。

  1. 〈医療費控除〉
    「医療費控除は、通常の医療費控除とセルフメディケーション税制(医療費控除の特例)との選択適用とされています。セルフメディケーション税制では、その年中に支払った特定一般用医薬品等購入費の総額から保険金などで補填される金額を控除した金額が()円を超えるときは、その超える部分の金額(最高()円)を総所得金額等から控除することができます」
  2. 「Aさんが通常の医療費控除の適用を選択した場合、下記の〈資料〉に基づく2023年分の所得税に係る医療費控除の控除額は()円となります。なお、Aさんが確定申告書を提出する際は、医療費の領収書の添付または提示に代えて、医療費控除の明細書の添付が必要となりますが、確定申告期限等から()年を経過する日までの間、医療費の領収書の提示または提出を求められる場合があります」
    〈空欄③のAさんが2023年中に支払った医療費等に関する資料〉
    1. 入院に伴って病院に支払った費用:50万円
      • Aさんの希望で使用した個室の差額ベッド代25万円、入院中に病院から給付された食事の費用2万円を含んだ金額である。
      • 入院時、病院に限度額適用認定証を提示している。
      • 契約者(=保険料負担者)および被保険者をAさんとする医療保険から入院給付金10万円を受け取っている。
      • Aさんの2023年分の総所得金額等の合計額は1,000万円である。
    2. 通院に伴って病院に支払った費用:3万円
    3. 通院のための電車賃:1万円
    4. 人間ドックの費用:10万円
  3. 〈住宅借入金等特別控除〉
    「長男Bさんは控除期間13年の住宅借入金等特別控除の適用を受けることができます。2023年の住宅借入金等特別控除の控除額は、住宅ローンの年末残高(限度額は(万円))×()%となります。なお、所得税額から控除しきれない場合、その控除しきれない金額を、所得税の課税総所得金額等の合計額の()%相当額または()円のいずれか少ないほうの額を限度として、翌年度分の住民税の所得割額から控除することができます」
万円

正解 

① 12,000(円)
② 88,000(円)
③ 190,000(円)
④ 5(年)
⑤ 5,000(万円)
⑥ 0.7(%)
⑦ 5(%)
⑧ 97,500(円)

分野

科目:D.タックスプランニング
細目:5.所得控除

解説

〔①、②について〕
セルフメディケーション税制は、健康診断を定期的にきちんと受けているなどの条件を満たす人が、自分や生計を一にする配偶者その他の親族のためにスイッチOTC医薬品購入費を支払った場合に、一定の金額の所得控除を受けることができる医療費控除の特例です。自分自身の健康に責任を持ち、軽度な体の不調を自分で手当てをするというセルフメディケーションを促進する税制として2017年に創設されました。

セルフメディケーション税制による医療費控除額は、1年間に実際に支払ったスイッチOTC医薬品購入費の合計額から、保険金などで補填された額および12,000円を差し引いた金額(最高88,000円)です。なお、通常の医療費控除との選択適用となっています。
よって、①は12,000(円)、②は88,000(円)が正解です。

※スイッチOTC医薬品とは、医師によって処方される医薬品(医療用医薬品)と同じ有効成分が含まれる市販薬で一定のものです。

〔③について〕
医療費控除の額は、以下の算式で計算します。
Aさんが支払った医療費を個別検討していきます。
入院費用 50万円
自己の都合による差額ベッド代や身の回り品の購入費は医療費控除の対象外です。これに対して、入院中の病院で支給される食事は入院代の一部として扱われます。このため、入院費用のうち医療費控除の対象となるのは、差額ベッド代を引いた「50万円-25万円=25万円」です。
通院費用 3万円
医師等による診療等を受けるために直接必要な費用なので、3万円全額が医療費控除の対象です。
通院のための電車賃 1万円
通院のために公共交通機関の対価として支払った費用は、医療費控除の対象です。
人間ドックの費用 10万円
健康診断の費用は、その健康診断で疾病が発見され、医師の指示により引き続き治療に移った場合に限って医療費控除の対象となります。設例の冒頭に"人間ドックの検査で重大な疾病が発見"とあるので対象となります。
したがって、医療費控除の対象となる医療費は「25万円+3万円+1万円+10万円=39万円」です。この額から、保険契約から受け取った入院給付金10万円および10万円を引いた額が、通常の医療費控除の額となります。なお、後日支給された高額療養費は保険金と同じく控除対象となりますが、Aさんは"限度額適用認定証を提示している"とあるので考慮する必要はありません。

 39万円-10万円-10万円=19万円

よって、正解は190,000(円)です。

〔④について〕
2016年(平成28年)までは、医療費控除の適用を受けようとするときは領収書の提出等が必要でしたが、それ以降は保険者等から交付される医療費控除の明細書(集計表)を提出することにより領収書等の提出が不要となりました。しかし、領収書を処分してよいわけではなく、確定申告期限から5年間保存することが義務付けられています。
よって、正解は5(年)です。

〔⑤について〕
入居した年が2022年以降である場合、新築・中古の別、住宅の種類によって控除限度額が変わります。認定長期優良住宅である新築住宅に2023年に入居した場合、住宅ローン控除の対象となる借入限度額は5,000万円となっています。
よって、正解は5,000(万円)です。
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〔⑥について〕
入居した年が2022年以降である場合、住宅ローンの控除率は0.7%です。
よって、正解は0.7(%)です。

〔⑦、⑧について〕
住宅ローン控除の控除額をその年の所得税額から控除しきれない場合、自動的に翌年の住民税額から控除されます。住民税からの控除限度額は、所得税の課税総所得金額等の5%(最高97,500円)です。
よって、⑦は5(%)、⑧は97,500(円)が正解です。