FP1級 2022年5月 応用編 問52

【この問題にはが用意されています。読んでから回答してください。】
 個人事業主のAさん(51歳)は、高校卒業後に入社した会社を11年前に退職して家業を引き継ぎ、現在に至っている。Aさんは、加入している生命保険の見直しをするにあたり、公的年金制度の障害給付および遺族給付について知りたいと思っている。また、老後の生活資金を準備するために、小規模企業共済制度への加入を検討している。さらに、友人から公的年金の受給開始年齢を繰り下げることで年金額を増やすことができると聞き、その仕組みについて知りたいと思っている。
 Aさんは、今後の生活設計について、ファイナンシャル・プランナーのMさんに相談することにした。Aさんの家族に関する資料は、以下のとおりである。

〈Aさんの家族に関する資料〉
  1. Aさん(本人)
    • 1970年10月12日生まれ
    • 公的年金の加入歴
      1989年4月から2010年12月まで厚生年金保険の被保険者である(厚生年金基金の加入期間はない)。
      2011年1月から現在に至るまで国民年金の第1号被保険者として国民年金保険料を納付している(付加保険料は納付していない)。
    • 2011年1月から現在に至るまで国民健康保険の被保険者である。
  2. Bさん(妻)
    • 1974年12月17日生まれ
    • 公的年金の加入歴
      1993年4月から2000年3月まで厚生年金保険の被保険者である。
      2000年4月から2010年12月まで国民年金の第3号被保険者である。
      2011年1月から現在に至るまで国民年金の第1号被保険者として国民年金保険料を納付している(付加保険料は納付していない)。
    • 2011年1月から現在に至るまで国民健康保険の被保険者である。
  3. Cさん(長女、高校3年生、2004年8月8日生まれ)
  4. Dさん(長男、高校1年生、2006年10月19日生まれ)
  5. Eさん(二男、中学2年生、2008年7月15日生まれ)
  • 妻Bさん、長女Cさん、長男Dさん、二男Eさんは、Aさんと同居し、現在および将来においても、Aさんと生計維持関係にあるものとする。
  • 家族全員、現在および将来においても、公的年金制度における障害等級に該当する障害の状態にないものとする。
  • 上記以外の条件は考慮せず、各問に従うこと。

問52

Aさんが現時点(2022年5月22日)で死亡し、妻Bさんが遺族基礎年金、遺族厚生年金および遺族年金生活者支援給付金の受給権を取得した場合、Aさんの死亡時における妻Bさんに係る遺族給付について、下記の〈条件〉に基づき、次の①・②に答えなさい。〔計算過程〕を示し、〈答〉は円単位とすること。また、年金額の端数処理は、円未満を四捨五入すること。
なお、年金額および給付金の額は年額とし、2021年度価額に基づいて計算するものとする。

  1. 遺族厚生年金の年金額(本来水準による価額)はいくらか。
  2. 遺族年金生活者支援給付金の額(年額:2023年度価額)はいくらか。
〈条件〉
  1. 厚生年金保険の被保険者期間
    • 総報酬制導入前の被保険者期間:168月
    • 総報酬制導入後の被保険者期間:93月
    (注)要件を満たしている場合、300月のみなし計算を適用すること。
  2. 平均標準報酬月額・平均標準報酬額(2021年度再評価率による額)
    • 総報酬制導入前の平均標準報酬月額:240,000円
    • 総報酬制導入後の平均標準報酬額:300,000円
  3. 乗率
    • 総報酬制導入前の乗率:1,000分の7.125
    • 総報酬制導入後の乗率:1,000分の5.481
  4. 中高齢寡婦加算額
    585,700円(要件を満たしている場合のみ加算すること)

正解 

① 330,150(円)
(240,000円×7.1251,000×168月+300,000円×5.4811,000×93月)×34
=330,150円(円未満四捨五入)
② 61,680(円)
5,140円×12月=61,680円

分野

科目:A.ライフプランニングと資金計画
細目:5.公的年金

解説

〔①について〕
遺族厚生年金は以下の者が死亡したときに支給されます。ⅰ~ⅲが短期要件、ⅳが長期要件と呼ばれます。
  1. 被保険者であるときに死亡
  2. 被保険者であったときに初診日がある傷病により、初診日から5年以内に死亡
  3. 障害厚生年金1級・2級の受給権者が死亡
  4. 保険料納付済期間と保険料免除期間を合算した期間が25年以上ある者が死亡
Aさんは国民年金の第1号被保険者ですので、ⅳの条件により遺族厚生年金が支給されることとなります。長期要件では、遺族厚生年金の計算に当たり、300月のみなし計算の適用がないこと、中高齢寡婦加算額の受給要件として240月以上の厚生年金の被保険者期間が必要となる点が異なります。

遺族厚生年金の年金額は、死亡した者の厚生年金の加入記録を基に計算した報酬比例部分の額の4分の3です。報酬比例部分の額は、次式で算出される額の合計になります。
  • 平均標準報酬月額×7.1251,000×総報酬制導入前の被保険者期間月数
    ※2003年3月以前
  • 平均標準報酬月額×5.4811,000×総報酬制導入後の被保険者期間月数
    ※2003年4月以降
Aさんの被保険者期間の合計は300月未満ですが、前述のとおり長期要件では300月のみなし計算がありません。厚生年金被保険者期間は総報酬制導入前が168月、総報酬制導入後が93月なので、報酬比例部分の額は、

 240,000円×7.1251,000×168月+300,000円×5.4811,000×93月
=240円×7.125×168月+300円×5.481×93月
=287,280円+152,919.9円=441,199.9円

この時点で端数処理すると誤差が生じる可能性があるので、4分の3を乗じた後に四捨五入をすることに注意です。

 441,199.9円×34=330,149.9…円
(円未満四捨五入)330,150円

中高齢寡婦加算額は、夫の死亡により遺族厚生年金を受給している年金法上の子のない妻に対して、40歳から65歳まで支給されるものなので、子があり遺族基礎年金を受給できる妻Bさんは対象外となります。

よって、正解は330,150(円)です。

〔③について〕
年金生活者支援給付金は、国民年金から年金給付を受けている一定以下の所得の者に対して毎月5,000円程度が支給される加算制度です。老齢・障害・遺族の年金ごとにあります。2023年度における遺族年金生活者支援給付金の額は、毎月5,140円なので年額だと、

 5,140円×12月=61,680円

よって、正解は61,680(円)です。