FP1級 2022年5月 応用編 問57

【この問題にはが用意されています。読んでから回答してください。】
 製造業を営むX株式会社(資本金30,000千円、青色申告法人、同族会社かつ非上場会社で株主はすべて個人、租税特別措置法上の中小企業者等に該当し、適用除外事業者ではない。以下、「X社」という)は、代表取締役社長であるAさん(65歳)が設立した会社である。Aさんは、2023年に65歳を迎え、老齢基礎年金を受給している。
 なお、X社の2024年3月期(2023年4月1日~2024年3月31日。以下、「当期」という)における法人税の確定申告に係る資料およびAさんの2023年分の収入等に関する資料は、以下のとおりである。

〈X社の当期における法人税の確定申告に係る資料〉
  1. 減価償却費に関する事項
    当期において、3年前に取得した生産設備(当期首の帳簿価額4,000千円・耐用年数10年・償却率(定率法)0.200)について、減損損失2,500千円を計上し、300千円を減価償却費として損金経理したが、減損損失2,500千円の計上は、税務上損金の額として認められないことが判明した。
  2. 退職給付引当金に関する事項
    当期において、決算時に退職給付費用3,000千円を損金経理するとともに、同額を退職給付引当金として負債に計上している。また、従業員の退職金支払の際に退職給付引当金を6,000千円取り崩し、同額を現金で支払っている。
  3. 受取配当金に関する事項
    当期において、上場会社であるY社から、X社が前期から保有しているY社株式に係る配当金2,000千円(源泉所得税控除前)を受け取った。なお、Y社株式は非支配目的株式等に該当する。
  4. 賃上げ促進税制に係る税額控除に関する事項
    当期における賃上げ促進税制(給与等の支給額が増加した場合の法人税額の特別控除)に係る控除対象雇用者給与等支給増加額は2,000千円である。適用を受けるための要件は満たしているが、上乗せ措置を受けるための要件までは満たしていない。
  5. 「法人税、住民税及び事業税」等に関する事項
    1. 損益計算書に表示されている「法人税、住民税及び事業税」は、預金の利子について源泉徴収された所得税額20千円・復興特別所得税額420円、受取配当金について源泉徴収された所得税額300千円・復興特別所得税額6,300円および当期確定申告分の見積納税額3,200千円の合計額3,526,720円である。なお、貸借対照表に表示されている「未払法人税等」の金額は3,200千円である。
    2. 当期中に「未払法人税等」を取り崩して納付した前期確定申告分の事業税(特別法人事業税を含む)は950千円である。
    3. 源泉徴収された所得税額および復興特別所得税額は、当期の法人税額から控除することを選択する。
    4. 中間申告および中間納税については、考慮しないものとする。

〈Aさん(白色申告者)の2023年分の収入等に関する資料〉
  1. 給与所得の金額:1,300万円
  2. 不動産所得(賃貸アパートの経営による所得)
    総収入金額:600万円
    必要経費 :680万円(注)
    (注)当該所得を生ずべき土地の取得に要した負債の利子20万円を含んだ金額
  3. 譲渡所得(上場株式を譲渡したことによる所得)
    総収入金額:270万円
    取得費等 :300万円
  4. 老齢基礎年金の年金額:52万円
  5. 確定拠出年金の老齢給付の年金額:30万円
  6. 個人年金保険契約に基づく年金収入:100万円(必要経費は60万円)
  7. 一時払終身保険の解約返戻金
    契約年月
    2022年4月
    契約者(=保険料負担者)・被保険者
    Aさん
    解約返戻金額
    970万円
    正味払込保険料
    1,000万円
  8. 一時払変額個人年金保険(10年確定年金)の解約返戻金
    契約年月
    2020年8月
    契約者(=保険料負担者)・被保険者
    Aさん
    解約返戻金額
    1,200万円
    正味払込保険料
    1,000万円
  9. 平準払養老保険の満期保険金
    契約年月
    1992年8月
    契約者(=保険料負担者)・被保険者
    Aさん
    満期保険金受取人
    Aさん
    満期保険金額
    850万円
    正味払込保険料
    700万円
  • 上記以外の条件は考慮せず、各問に従うこと。

問57

《設例》のX社の当期の〈資料〉と下記の〈条件〉に基づき、同社に係る〈略式別表四(所得の金額の計算に関する明細書)〉の空欄①~⑥に入る最も適切な数値を、解答用紙に記入しなさい。なお、別表中の「***」は、問題の性質上、伏せてある。

〈条件〉
  • 設例に示されている数値等以外の事項については考慮しないものとする。
  • 所得の金額の計算上、選択すべき複数の方法がある場合は、所得の金額が最も低くなる方法を選択すること。
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正解 

① 3,200,000(円)
② 2,000,000(円)
③ 3,000,000(円)
④ 400,000(円)
⑤ 326,720(円)
⑥ 17,000,000(円)

分野

科目:D.タックスプランニング
細目:10.法人税

解説

まず、会計上の利益から法人税の所得金額と納付税額を計算する大まかな流れ、別表四における加算・減算の項目を確認しておきましょう。
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〔①について〕
見積り額として当期の損益計算書に損金計上した法人税額等は、実際にはまだ支出していませんから損金不算入となります。このため、5.(1)に記載がある当期確定申告分の見積納税額3,200千円が加算対象となります。
よって、正解は3,200,000(円)です。

〔②について〕
減損損失は、決算時に資産の評価額を減少させて、従来の簿価との差額を評価損として企業会計上の損金に計上したものです。資産の評価益・評価損は、恣意的な利益操作を防ぐため、一定の事実が生じた場合でなければ税法上の益金・損金として認容されませんが、減価償却資産の減損損失については、例外的にその期の減価償却費に含めて損金にすることができます(法基通7-5-1)。
減損損失を合算した減価償却費は「2,500+300=2,800千円」、定率法による当期の償却費限度額は期首の簿価4,000千円に償却率0.200を乗じた「4,000千円×0.200=800千円」ですから、2,800千円のうち損金に算入できるのは800千円、残りの2,000千円は損金不算入として加算の対象となります。
よって、正解は2,000,000(円)です。

〔③について〕
退職給付会計は、勤続年数に応じて社員に対する退職金支払い債務が増えると捉え、定期に退職給付引当金を費用化し、退職金支払い時にはそれまで積み立てた退職給付引当金を取り崩す(費用処理しない)会計方式です。
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税法上の計算では退職給付会計の損益計上は一切認められていないので、会計上で費用として処理されているものは損金不算入として加算し、費用として処理されていないものは損金算入として減算することになります。したがって、2.で損金経理されている退職給付費用3,000千円が損金不算入額となります。
よって、正解は3,000,000(円)となります。

また、減算で***となっている退職給付引当金の当期認容額には、退職給付会計における取崩し額6,000千円が該当します。これは最後の所得金額の計算時に使います。

〔④について〕
受取配当金は、法人税の二重課税を避ける観点から以下の区分に従い全部または一部が益金不算入となります。
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Y社株式は非支配目的株式等ですから、配当等の額の20%相当額が益金不算入となります。Y社に係る配当金は2,000千円のため、受取配当等の益金不算入額は、

 2,000千円×20%=400千円

よって、正解は400,000(円)となります。

〔⑤について〕
法人が支払いを受ける利子等、配当等などについて源泉徴収された所得税および復興特別所得税額が該当します。5.(1)に記載では預金の利子について源泉徴収された所得税額20千円・復興特別所得税額420円、受取配当金について所得税額300千円・復興特別所得税額6,300円があるため、法人税額から控除される所得税額は、

 20,000円+420円+300,000+6,300円=326,720円

よって、正解は326,720(円)となります。

〔⑥について〕
法人税の所得金額は、当期利益の額に加算額を加え減算額を減らした「仮計」に、"法人税額から控除される所得税額"を加え、"欠損金又は災害損失金等の当期控除額"を控除した額になります。
所得税額は最終的に法人税額から控除されますが、会計上では租税公課等として費用処理されているので一旦は所得金額に加算します。欠損金等は過年度分の欠損金額の繰越控除により損金となる額ですから所得金額から差し引きます。
加算の合計額
3,200,000+2,000,000+3,000,000=8,200,000円
減算の合計額
950,000+400,000+6,000,000=7,350,000円
所得金額
15,823,280+8,200,000-7,350,000+326,720-0=17,000,000円
よって、正解は17,000,000(円)となります。