FP1級 2023年9月 応用編 問53

【この問題にはが用意されています。読んでから回答してください。】
 X株式会社(以下、「X社」という)に勤務するAさん(61歳)は、妻Bさん(61歳)との2人暮らしである。X社は65歳定年制を採用しているが、最長で70歳まで同社で勤務することができる再雇用制度を設けている。Aさんは、X社の再雇用制度を利用する予定であるが、再雇用後は賃金が低下するため、65歳から公的年金制度の老齢給付を受給したいと考えている。また、老齢年金の受給開始後に、物価が上昇すると老齢年金の実質的な受取額が減ってしまうのではないかと心配しており、年金額がどのように改定されるのかについて知りたいと考えている。
 そこで、Aさんは、ファイナンシャル・プランナーのMさんに相談することにした。Aさんの家族に関する資料は、以下のとおりである。

〈Aさんとその家族に関する資料〉
  1. Aさん(本人)
    • 1961年11月2日生まれ
    • 公的年金の加入歴
      1981年11月から1984年3月までの大学生であった期間(29月)は国民年金に任意加入していない。
      1984年4月から現在に至るまで厚生年金保険の被保険者である(厚生年金基金の加入期間はない)。
    • 全国健康保険協会管掌健康保険の被保険者である。
    • 1984年4月から現在に至るまで雇用保険の一般被保険者である。
  2. Bさん(妻)
    • 1961年9月29日生まれ
    • 公的年金の加入歴
      1980年4月から1998年3月まで厚生年金保険の被保険者である(厚生年金基金の加入期間はない)。
      1998年4月から60歳に達するまで国民年金の第3号被保険者である。
    • 全国健康保険協会管掌健康保険の被扶養者である。
  3. 子(2人)
    • 長男(32歳)と長女(30歳)がいるが、いずれも結婚して独立している。
  • 妻Bさんは、Aさんと同居し、現在および将来においても、Aさんと生計維持関係にあるものとする。
  • Aさんと妻Bさんは、現在および将来においても、公的年金制度における障害等級に該当する障害の状態にないものとする。
  • 上記以外の条件は考慮せず、各問に従うこと。

問53

Aさんが、定年後もX社の再雇用制度を利用して厚生年金保険の被保険者として同社に勤務する場合、Aさんが原則として65歳時に受給することができる公的年金の老齢給付について、次の①および②に答えなさい。〔計算過程〕を示し、〈答〉は円単位とすること。また、年金額の端数処理は、円未満を四捨五入すること。
なお、計算にあたっては、下記の〈条件〉に基づき、年金額は2023年度価額(新規裁定者)、在職老齢年金による支給調整は2023年度価額の支給停止調整額に基づいて計算するものとし、在職定時改定は考慮しないものとする。

  1. 老齢基礎年金の年金額はいくらか。
  2. 在職老齢年金による支給調整後の老齢厚生年金の年金額(本来水準による価額)はいくらか。
〈条件〉
  1. 厚生年金保険の被保険者期間(65歳到達時)
    • 総報酬制導入前の被保険者期間:228月
    • 総報酬制導入後の被保険者期間:283月
  2. 平均標準報酬月額および平均標準報酬額(65歳到達時、2023年度再評価率による額)
    • 総報酬制導入前の平均標準報酬月額:326,000円
    • 総報酬制導入後の平均標準報酬額:487,000円
  3. 報酬比例部分の給付乗率
    • 総報酬制導入前の乗率:1,000分の7.125
    • 総報酬制導入後の乗率:1,000分の5.481
  4. 経過的加算額
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  5. 加給年金額
    397,500円(要件を満たしている場合のみ加算すること)
  6. 総報酬月額相当額
    380,000円

正解 

① 746,969(円)
795,000円×451月480月=746,969円(円未満四捨五入)
② 1,290,883(円)
(326,000円×7.1251,000×228月+487,000円×5.4811,000×283月)
=1,284,984円(円未満四捨五入)
1,284,984円÷12=107,082円
(380,000円+107,082円-480,000円)×12×12=42,492円
1,284,984円-42,492円=1,242,492円
1,657円×480月-795,000円×451月480月=48,391円(円未満四捨五入)
1,242,492円+48,391円=1,290,883円

分野

科目:A.ライフプランニングと資金計画
細目:5.公的年金

解説

〔①について〕
老齢基礎年金の年金額は、以下の算式で求めます。2023年度の基本年金額は795,000円です。

 基本年金額×保険料納付済月数480月

Aさんは、大学生だったときの29月の未納期間を除き、60歳まで厚生年金に加入しているので保険料納付済月数は480月から29月を差し引いた「480月-29月=451月」です。免除期間はないのでそのまま計算します。

 795,000円×451月480月=746,968.8…円
(円未満四捨五入)746,969円

よって、正解は746,969(円)です。

〔②について〕
65歳以上の老齢厚生年金の年金額は、以下の算式で求めます。

 報酬比例部分の額+経過的加算額+加給年金額

【報酬比例部分の額】
次式で算出される額の合計になります。
  • 平均標準報酬月額×7.1251,000×総報酬制導入前の被保険者期間月数
    ※2003年3月以前
  • 平均標準報酬月額×5.4811,000×総報酬制導入後の被保険者期間月数
    ※2003年4月以降
厚生年金被保険者期間は総報酬制導入前が228月、総報酬制導入後が283月なので、報酬比例部分の額は、

 326,000円×7.1251,000×228月+487,000円×5.4811,000×283月
=326円×7.125×228月+487円×5.481×283月
=529,587円+755,396.9…円=1,284,983.9…円
(円未満四捨五入)1,284,984円

【経過的加算額】
厚生年金の被保険者期間の合計は「228月+283月=511月」ですが、上限が480月なので480月を使います。20歳以上60歳未満の被保険者期間の月数は、60歳から65歳までの5年分(60月)を差し引いた「511月-60月=451月」です。これを計算式に当てはめると、

 1,657円×480月-795,000円×451月480月
=795,360円-746,968.75円=48,391.25円
(円未満四捨五入)48,391円

【加給年金額】
次の表の条件を満たすときに支給されます。被保険者期間の要件は満たしていますが、妻BさんはAさんより年上なので支給対象外となります。
以上より、老齢厚生年金の基本年金額は、

 1,284,984円+48,391円=1,333,375円

【在職老齢年金による調整】
老齢厚生年金を受給しながら厚生年金の被保険者として勤務している場合、厚生年金の総報酬月額相当額に年金の基本月額に加えた額が、支給停止調整開始額である48万円を超えると、その超えた部分の2分の1相当額の年金が支給停止されます。支給停止の算定対象となるのは報酬比例部分の額だけで、経過的加算額は常に全額が支給されるので注意しましょう。
年金の基本月額は、報酬比例部分の年額を12月で除した

 1,284,984円÷12月=107,082円

総報酬月額相当額は380,000円なので、107,082円を足すと、

 380,000円+107,082円=487,082円

48万円を超える部分の2分の1が1月当たりの支給停止額です。年額換算の支給停止額は、

 (487,082円-480,000円)×1/2×12月=42,492円

本来の老齢厚生年金の年金額から上記の額を控除した額が、実際に支給される年金額となります。

 1,333,375円-42,492円=1,290,883円

よって、正解は1,290,883(円)です。