FP1級 2021年9月 応用編 問64

【この問題にはが用意されています。読んでから回答してください。】
 非上場会社のX株式会社(以下、「X社」という)の代表取締役社長であるAさん(70歳)の推定相続人は、妻Bさん(65歳)および長男Cさん(38歳)の2人である。2年前に大手電機メーカーを退職し、X社に入社した後継者の長男Cさんは、専務取締役として財務・管理部門を統括しており、従業員からの信頼は厚い。Aさんは、先日、既に退職したX社の創業メンバーDさん(70歳)から、X社株式を買い取ってほしいとの依頼を受け、自社株式の対策を講じなければならないと思案しているところである。X社の概要は、以下のとおりである。

〈X社の概要〉
  1. 業種 電気機械器具製造業
  2. 資本金等の額 9,000万円(発行済株式総数180,000株、すべて普通株式で1株につき1個の議決権を有している)
  3. 株主構成
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    • Dさんは、Aさんと特殊の関係にある者(同族関係者)ではない。
  4. 株式の譲渡制限 あり
  5. X社株式の評価(相続税評価額)に関する資料
    • X社の財産評価基本通達上の規模区分は「中会社の中」である。
    • X社は、特定の評価会社には該当しない。
    • 比準要素の状況
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      • すべて1株当たりの資本金等の額を50円とした場合の金額である。
    • 類似業種の1株(50円)当たりの株価の状況
      課税時期の属する月の平均株価 360円
      課税時期の属する月の前月の平均株価 362円
      課税時期の属する月の前々月の平均株価 352円
      課税時期の前年の平均株価 350円
      課税時期の属する月以前2年間の平均株価 348円
  6. X社の資産・負債の状況
    直前期のX社の資産・負債の相続税評価額と帳簿価額は、次のとおりである。
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  • 上記以外の条件は考慮せず、各問に従うこと。

問64

《設例》の〈X社の概要〉に基づき、X社株式の1株当たりの①純資産価額および②類似業種比準方式と純資産価額方式の併用方式による価額を、それぞれ求めなさい(計算過程の記載は不要)。〈答〉は円未満を切り捨てて円単位とすること。
なお、X社株式の相続税評価額の算定にあたり、複数の方法がある場合は、最も低い価額となる方法を選択するものとする。

正解 

① 5,670(円)
② 3,108(円)

分野

科目:F.相続・事業承継
細目:5.相続財産の評価(不動産以外)

解説

〔①について〕
純資産価額方式は、相続税評価額ベースの総資産から負債の合計額と評価差額に対する法人税額等相当額を差し引いて正味の純資産額を求め、それを発行済株式数で除すること1株当たりの価額を求める方法です(財評通185~188)。
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FP試験で問われるかはわかりませんが、計算上の注意点として以下のようなものがあるので注意しておきましょう。
  • 課税時期前3年以内に取得した土地等や家屋等は時価で評価する
  • 負債に計上されている各種引当金や準備金は負債から除く
  • 事業年度開始から課税時期に対応する法人税額等は負債に入れる
  • 被相続人の死亡により支給することが確定した退職手当金・功労金等は負債に入れる
まず、相続税評価額ベースの純資産額を求めます。資料の資産(相続税評価額)から負債(相続税評価額)を控除して、

 223,900万円-93,600万円=130,300万円

この額から「評価差額に対する法人税等額」を控除します。評価差額とは、相続税評価による純資産額と帳簿価額による純資産額の差額のことです。法人の解散に伴う残余財産の分配は時価で行われたと認識され、時価と帳簿価額の差額は益金・損金に算入されて法人税が課されるため、株式の評価上そのときに支払う法人税等相当額を負債として控除するというものです。なお、評価差額に乗じる37%は法人税率の改正などにより適宜見直されています。

 帳簿価額ベースの純資産額 147,600万円-93,600万円=54,000万円
 評価差額 130,300万円-54,000万円=76,300万円
 評価差額に対する法人税等額 76,300万円×37%=28,231万円

X社の発行済株式数は設例より18万株なので、1株当たりの純資産価額は、

 (130,300万円-28,231万円)÷18万株=5,670.5円
(円未満切り捨て)5,670円

よって、正解は5,670(円)となります。

〔②について〕
X社のような中会社は、原則として類似業種比準方式と純資産価額方式の併用方式で評価しますが、純資産価額が低い場合にはそちらを評価額とすることもできます。併用方式は、両方の価格を所定の繰入割合で按分計算する方法で、繰入割合は会社規模によって以下のように決まっています。
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X社は「中会社の中」ですので、類似業種比準価額の75%と純資産価額の25%の合計が、併用方式による価額となります。類似業種比準価額は問63で求めた2,255円、純資産価額は①で求めた5,670円なので、

 2,255円×0.75+5,670円×0.25
=1,691.25円+1,417.5円=3,108.75円
(円未満切り捨て)3,108円

純資産価額5,670円>併用方式3,108円なので、より低い価額である併用方式の価額を選択します。
よって、正解は3,108(円)となります。