FP1級 2023年5月 応用編 問53

【この問題にはが用意されています。読んでから回答してください。】
 X株式会社(以下、「X社」という)に勤務するAさん(59歳)は、妻Bさん(55歳)との2人暮らしである。X社は、満60歳の定年制(60歳到達月の末日が退職日)を採用し、再雇用制度が設けられているが、Aさんは、定年退職して時間にゆとりを持てる会社に再就職するか、完全に引退することを考えている。
 Aさんは、定年退職後の過ごし方を検討するために、雇用保険からの保険給付や公的年金制度からの老齢給付について知りたいと思っている。
 そこで、Aさんは、ファイナンシャル・プランナーのMさんに相談することにした。Aさんの家族に関する資料は、以下のとおりである。

〈Aさんの家族に関する資料〉
  1. Aさん(本人)
    • 1963年11月25日生まれ
    • 公的年金の加入歴
      1983年11月から1986年3月までの大学生であった期間(29月)は国民年金に任意加入し、保険料を納付している(付加保険料は納付していない)。
      1986年4月から現在に至るまで厚生年金保険の被保険者である(厚生年金基金の加入期間はない)。
    • 全国健康保険協会管掌健康保険の被保険者である。
    • 1986年4月から現在に至るまで雇用保険の一般被保険者である。
  2. Bさん(妻)
    • 1967年8月16日生まれ
    • 公的年金の加入歴
      1987年8月から1990年3月までの大学生であった期間(32月)は国民年金に任意加入していない。
      1990年4月から現在に至るまで厚生年金保険の被保険者である(厚生年金基金の加入期間はない)。
    • 全国健康保険協会管掌健康保険の被保険者である。
    • 1990年4月から現在に至るまで雇用保険の一般被保険者である。
  • 妻Bさんは、Aさんと同居し、現在および将来においても、Aさんと生計維持関係にあるものとする。
  • Aさんと妻Bさんは、現在および将来においても、公的年金制度における障害等級に該当する障害の状態にないものとする。
  • 上記以外の条件は考慮せず、各問に従うこと。

問53

Aさんが、X社を定年退職し、再就職せずに2023年12月に公的年金の老齢給付の繰上げ支給を請求した場合、繰上げ請求時におけるAさんの老齢給付について、次の①および②に答えなさい。〔計算過程〕を示し、〈答〉は円単位とすること。また、年金額の端数処理は、円未満を四捨五入すること。
なお、計算にあたっては、下記の〈条件〉に基づき、年金額は、2022年度価額に基づいて計算するものとする。

  1. 繰上げ支給の老齢基礎年金の年金額はいくらか。
  2. 繰上げ支給の老齢厚生年金の年金額(本来水準による価額)はいくらか。
〈条件〉
  1. 厚生年金保険の被保険者期間
    • 総報酬制導入前の被保険者期間:204月
    • 総報酬制導入後の被保険者期間:248月
  2. 平均標準報酬月額および平均標準報酬額(2023年12月時点、2022年度再評価率による額)
    • 総報酬制導入前の平均標準報酬月額:36万円
    • 総報酬制導入後の平均標準報酬額:58万円
  3. 報酬比例部分の給付乗率
    • 総報酬制導入前の乗率:1,000分の7.125
    • 総報酬制導入後の乗率:1,000分の5.481
  4. 経過的加算額
    53.png./image-size:506×92
  5. 加給年金額
    388,900円(要件を満たしている場合のみ加算すること)

正解 

① 594,239(円)
777,800円×480月480月=777,800円
777,800円×0.004×59月=183,561円(円未満四捨五入)
777,800円-183,561円=594,239円
② 1,003,538(円)
360,000円×7.1251,000×204月+580,000円×5.4811,000×248月
=1,311,647円(円未満四捨五入)
1,621円×452月-777,800円×451月480月
=1,884円(円未満四捨五入)
{(360,000円×7.1251,000×204月+580,000円×5.4811,000×248月)
+(1,621円×452月-777,800円×451月480月)}×0.004×59月
=309,993円(円未満四捨五入)
1,311,647円+1,884円-309,993円
=1,003,538円

分野

科目:A.ライフプランニングと資金計画
細目:5.公的年金

解説

〔①について〕
老齢基礎年金の年金額は、以下の算式で求めます。2022年度の基本年金額は777,800円です。

 基本年金額×保険料納付済月数480月

Aさんは、大学生だったときも国民年金保険料を納付し、その後60歳まで厚生年金に加入しているので保険料納付済月数は480月となります。

次に繰上げについて考えます。Aさんは1963年11月生まれ、繰上げ請求を行うのは2023年12月で60歳1カ月までの繰上げとなるので、繰上げ期間は59月です。そして、Aさんは1962年4月2日以降の生まれ(法改正時の2022年4月1日時点で60歳になっている)なので、適用される減額率は1月当たり0.4%です。したがって、繰上げによる減額率は「0.4%×59月=23.6%」となります。

以上より、繰上げ後の老齢基礎年金の額は、

 777,800円×480月480月×(1-23.6%)
=777,800円×76.4%=594,239.2…円
(円未満四捨五入)594,239円

よって、正解は594,239(円)です。

〔②について〕
65歳以上の老齢厚生年金の年金額は、以下の算式で求めます。

 報酬比例部分の額+経過的加算額+加給年金額

【報酬比例部分の額】
次式で算出される額の合計になります。
  • 平均標準報酬月額×7.1251,000×総報酬制導入前の被保険者期間月数
    ※2003年3月以前
  • 平均標準報酬月額×5.4811,000×総報酬制導入後の被保険者期間月数
    ※2003年4月以降
厚生年金被保険者期間は総報酬制導入前が228月、総報酬制導入後が283月なので、報酬比例部分の額は、

 360,000円×7.1251,000×204月+580,000円×5.4811,000×248月
=360円×7.125×204月+580円×5.481×248月
=523,260円+788,387.7…円=1,311,647.7…円
(円未満四捨五入)1,311,647円

【経過的加算額】
厚生年金の被保険者期間の合計は「204月+248月=452月」、Aさんは60歳到達月に退職しているので、20歳以上60歳未満の被保険者期間の月数は全体から1月を除いた451月となります。これを計算式に当てはめると、

 1,621円×452月-777,800円×451月480月
=732,692円-730,807.9…円=1,884.0…円
(円未満四捨五入)1,884円

【加給年金額】
加給年金額は、65歳または特別支給の老齢厚生年金の定額部分の支給開始年齢になった者しか支給されませんから、Aさんの60歳から65歳までの年金には加算されません。

以上より、老齢厚生年金の基本年金額は、

 1,311,647円+1,884円=1,313,531円

繰上げを行った場合、報酬比例部分の額、経過的加算額ともに所定の割合で減額されます。①のとおり減額率は23.6%なので、繰上げ請求時の老齢厚生年金の額は、

 1,313,531円×(1-23.6%)
=1,313,531円×76.4%=1,003,537.6…円
(円未満四捨五入)1,003,538円

よって、正解は1,003,538(円)です。