FP1級 2023年9月 応用編 問58

【この問題にはが用意されています。読んでから回答してください。】
 個人事業主であるAさんは、妻Bさんと小売業を営むとともに、所有する賃貸マンションから賃貸収入を得ている。2023年中に台風により自宅の一部が損壊したことから、火災保険から受け取った保険金や個人年金保険の解約返戻金を修理費用に充てており、確定申告で雑損控除の適用を受けようと考えている。
 Aさんの家族および2023年分の収入等に関する資料は、以下のとおりである。

〈Aさんとその家族に関する資料〉
Aさん(47歳)
青色申告者
妻Bさん(46歳)
2023年中に青色事業専従者として給与収入80万円を得ている。
父Cさん(75歳)
2023年中に公的年金の老齢年金から年金収入150万円を得ている。
長男Dさん(20歳)
大学生。2023年中にアルバイトにより給与収入100万円を得ている。
〈Aさんの2023年分の収入等に関する資料〉
  1. 事業所得に関する事項
    ①売上高、仕入高等
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    • 上記の必要経費は適正に計上されている。なお、当該必要経費には、青色事業専従者給与は含まれているが、売上原価および下記②の減価償却費は含まれていない。
    ②取得した減価償却資産(上記①の必要経費には含まれていない)
    • パソコン2台:5月11日に事業用として1台当たり9万円で取得し、取得後直ちに事業の用に供している。
      (耐用年数4年、償却率(定率法0.5/定額法0.25))
    • 機械設備1台:7月12日に事業用として320万円で取得し、取得後直ちに事業の用に供している。償却方法は法定償却方法とする。
      (耐用年数8年、償却率(定率法0.25/定額法0.125))
  2. 不動産所得に関する事項
    賃貸収入:790万円
    必要経費:815万円(賃貸用不動産の取得に要した負債の利子50万円(土地の取得に係るものが30万円、建物の取得に係るものが20万円)が含まれている)
  3. 台風による損害額と保険金等に関する事項
    損害金額
    300万円(下記の災害関連支出は含まれていない)
    災害関連支出の金額
    100万円
    火災保険からの保険金
    150万円
  4. 解約した個人年金保険に関する事項
    保険の種類
    一時払変額個人年金保険(10年確定年金)
    契約年月
    2012年2月
    契約者(=保険料負担者)
    Aさん
    被保険者
    Aさん
    解約返戻金額
    340万円
    正味払込保険料
    270万円
  • 妻Bさん、父Cさん、長男Dさんは、Aさんと同居し、生計を一にしている。
  • Aさんとその家族は、いずれも障害者および特別障害者には該当しない。
  • Aさんとその家族の年齢は、いずれも2023年12月31日現在のものである。
  • 上記以外の条件は考慮せず、各問に従うこと。

問58

Aさんの2023年分の事業所得の金額を求めなさい。〔計算過程〕を示し、〈答〉は円単位とすること。
なお、Aさんは、正規の簿記の原則(複式簿記)に従って記帳し、それに基づき作成した貸借対照表および損益計算書等を確定申告書に添付して、確定申告期限内に提出し、かつ、e-Taxによる申告(電子申告)を行うものとし、事業所得の金額の計算上、青色申告特別控除額を控除すること。また、特に記載のない限り、2023年分の所得税が最も少なくなる課税方法を選択するものとする。

正解 

 14,180,000(円)
9,100,000円+84,000,000円-9,450,000円=83,650,000円
3,200,000円×0.125×6月12月
=200,000円
110,000,000円-(11,140,000円+83,650,000円+200,000円+180,000円)-650,000円
=14,180,000円

分野

科目:D.タックスプランニング
細目:3.各種所得の内容

解説

事業所得の金額は、1年間の事業所得に係る総収入金額から必要経費を控除して計算します。また、本問の条件より、青色申告特別控除額も控除する必要があります。

【総収入金額】
売上高が収入金額となります。売上値引・返品高・売上割戻がある場合、売上高から直接控除できますが、本問はどれもないので売上高そのままです。

 11,000万円 … (1)

【必要経費】
必要経費として控除できるのは、収入を得るために要した費用および事業用資産に生じた損失などであり、売上原価、減価償却費、青色事業専従者給与、事業専従者控除などが含まれます。
  1. 資料①中に記載されている必要経費
     1,114万円(青色事業専従者給与含む)
  2. 売上原価
    年初の商品棚卸高+年間の仕入高-年末の商品棚卸高で求めます。
     910万円+8,400万円-945万円=8,365万円
  3. 減価償却費
    パソコン2台を各9万円で取得しています。使用可能期間1年未満または取得価額10万円未満の減価償却資産は、減価償却をすることなく取得価額の全額を必要経費に算入することができるので、パソコンに係る減価償却費は「9万円×2台=18万円」です。

    車両1台は7月12日から事業用として使われています。減価償却費は日割りではなく月割りで計算し、月の途中から使用開始したときはその月を1カ月分として考えるので、事業用に使用した7月~12月までの6ヶ月分に相当する減価償却費が必要経費となります。"償却方法は法定償却方法"とあるので用いるのは定額法です。定額法では取得価額に償却率を乗じて毎年の償却費を求めます。取得価額は320万円、償却率は0.125、使用月数は6カ月なので、
     320万円×0.125×6月12月=20万円
    したがって減価償却費の合計額は「18万円+20万円=38万円」です。
以上より、必要経費の合計は、

 1,114万円+8,365万円+38万円=9,517万円 … (2)

【青色申告特別控除額】
Aさんは青色申告者であり、複式簿記に基づいて作成した貸借対照表・損益計算書を確定申告期限内に提出し、さらにe-Taxによる申告を行うため、(3)65万円の青色申告特別控除額を適用できます。

(1)~(3)より、事業所得の金額は、

 11,000万円-9,517万円-65万円=1,418万円

よって、正解は14,180,000(円)となります。