FP1級 2023年9月 応用編 問59

【この問題にはが用意されています。読んでから回答してください。】
 個人事業主であるAさんは、妻Bさんと小売業を営むとともに、所有する賃貸マンションから賃貸収入を得ている。2023年中に台風により自宅の一部が損壊したことから、火災保険から受け取った保険金や個人年金保険の解約返戻金を修理費用に充てており、確定申告で雑損控除の適用を受けようと考えている。
 Aさんの家族および2023年分の収入等に関する資料は、以下のとおりである。

〈Aさんとその家族に関する資料〉
Aさん(47歳)
青色申告者
妻Bさん(46歳)
2023年中に青色事業専従者として給与収入80万円を得ている。
父Cさん(75歳)
2023年中に公的年金の老齢年金から年金収入150万円を得ている。
長男Dさん(20歳)
大学生。2023年中にアルバイトにより給与収入100万円を得ている。
〈Aさんの2023年分の収入等に関する資料〉
  1. 事業所得に関する事項
    ①売上高、仕入高等
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    • 上記の必要経費は適正に計上されている。なお、当該必要経費には、青色事業専従者給与は含まれているが、売上原価および下記②の減価償却費は含まれていない。
    ②取得した減価償却資産(上記①の必要経費には含まれていない)
    • パソコン2台:5月11日に事業用として1台当たり9万円で取得し、取得後直ちに事業の用に供している。
      (耐用年数4年、償却率(定率法0.5/定額法0.25))
    • 機械設備1台:7月12日に事業用として320万円で取得し、取得後直ちに事業の用に供している。償却方法は法定償却方法とする。
      (耐用年数8年、償却率(定率法0.25/定額法0.125))
  2. 不動産所得に関する事項
    賃貸収入:790万円
    必要経費:815万円(賃貸用不動産の取得に要した負債の利子50万円(土地の取得に係るものが30万円、建物の取得に係るものが20万円)が含まれている)
  3. 台風による損害額と保険金等に関する事項
    損害金額
    300万円(下記の災害関連支出は含まれていない)
    災害関連支出の金額
    100万円
    火災保険からの保険金
    150万円
  4. 解約した個人年金保険に関する事項
    保険の種類
    一時払変額個人年金保険(10年確定年金)
    契約年月
    2012年2月
    契約者(=保険料負担者)
    Aさん
    被保険者
    Aさん
    解約返戻金額
    340万円
    正味払込保険料
    270万円
  • 妻Bさん、父Cさん、長男Dさんは、Aさんと同居し、生計を一にしている。
  • Aさんとその家族は、いずれも障害者および特別障害者には該当しない。
  • Aさんとその家族の年齢は、いずれも2023年12月31日現在のものである。
  • 上記以外の条件は考慮せず、各問に従うこと。

問59

前問《問58》を踏まえ、Aさんの2023年分の所得税および復興特別所得税の申告納税額を計算した下記の表の空欄①~⑦に入る最も適切な数値を、解答用紙に記入しなさい。空欄⑦については100円未満を切り捨てること。
なお、Aさんは、雑損控除の適用を受けるものとし、計算にあたっては、次頁の〈資料〉を用いるものとする。また、記載のない事項については考慮しないものとし、問題の性質上、明らかにできない部分は「□□□」で示してある。
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正解 

① 14,280,000(円)
② 1,072,000(円)
③ 1,210,000(円)
④ 480,000(円)
⑤ 1,777,200(円)
⑥ 32,970(円)
⑦ 1,602,900(円)

分野

科目:D.タックスプランニング
細目:2.所得税の仕組み

解説

〔①について〕
総所得金額は、事業所得・不動産所得・一時所得の金額の合計です。

【事業所得】
(問58より)1,418万円

【不動産所得】
総収入金額-必要経費で計算します。
 790万円-815万円=▲25万円

【解約返戻金 … 一時所得】
契約から5年を経過した後に受け取っているので、一時所得に該当します。
一時所得の金額は、総収入金額-支出金額-特別控除額(最高50万円)で計算し、求めた額のうち2分の1が総所得金額に算入されます。総収入金額は解約返戻金額の340万円、支出金額は正味払込保険料の270万円なので、

 一時所得の金額 340万円-270万円-50万円=20万円
 総所得金額に算入する額 20万円×1/2=10万円

【損益通算】
不動産所得の必要経費には土地の取得に係るものが30万円含まれているので、この額は損益通算の対象となりません。よって、不動産所得の損失のうち損益通算できる額は「25万円-30万円=▲5万円 ⇒ 0円」です。

以上より、総所得金額は、事業所得と一時所得を合計した「1,418万円+10万円=1,428万円」となります。
よって、正解は14,280,000(円)です。

〔②について〕
雑損控除の額は、以下のいずれか多い額となります。
  • A:差引損失額-(総所得金額等×10%)
  • B:差引損失額のうち災害関連支出の金額-5万円
式中の各金額の意味は次のとおりです。
差引損失額
損害金額(災害等関連支出の金額を含む)から保険金等の額を差し引いた額
災害関連支出の金額
災害により滅失・損壊した住宅家財等を取壊しまたは除去するために支出した金額など
災害関連支出の金額
災害関連支出の金額に、盗難・横領による損失が生じた住宅家財等の原状回復のための支出を加えた額
上記の式に〈設例〉資料Ⅲの値を当てはめて計算します。
  • 差引損失額 300万円+100万円-150万円=250万円
  • A:250万円-(1,428万円×10%)=107.2万円
  • B:100万円-5万円=95万円
2つを比べて多いほうなので、107.2万円が雑損控除の額となります。
よって、正解は1,072,000(円)です。

※総所得金額とは、総所得金額に山林所得と退職所得を加えた額です。

〔③について〕
父Cさんと長男Dさんが該当します。父Cさんは年金収入を得ていますが、65歳以上で公的年金以外の合計所得金額が1,000万円以下の人には最低でも110万円の公的年金等控除額がありますから、父Cさんの所得金額は「150万円-110万円=40万円」、長男Dさんはアルバイト収入を得ていますが、給与所得者には最低でも55万円の給与所得控除額がありますから、長男Dさんの所得金額は「100万円-55万円=45万円」となり、2人とも扶養控除の要件である所得金額48万円以下を満たしています。
控除額は、70歳以上で同居している父Cさんが同居老親等として58万円、19歳以上23歳未満の長男Dさんが特定扶養親族として63万円です。したがって、Aさんが適用を受けられる扶養控除の額は「63万円+58万円=121万円」となります。
よって、正解は1,210,000(円)です。
〔④について〕
基礎控除の額は、納税者本人の合計所得金額が2,400万円以下であれば48万円となります。①よりAさんの合計所得金額は2,400万円以下とわかります。
よって、正解は480,000(円)です。
〔⑤について〕
所得金額に対応する所得税額は、総所得金額から所得控除の合計額を引いて課税総所得金額を求め、課税総所得金額を所得税の速算表に当てはめて計算します。

(a)総所得金額は①の1,428万円、(b)所得控除の合計額は「107.2万円+121万円+147.8万円+48万円=424万円」なので、課税総所得金額(a-b)は「1,428万円-424万円=1,004万円」となります。課税総所得金額を<資料>所得税の速算表に当てはめると、所得金額に対応する所得税額は、

 10,040,000円×33%-1,536,000円=1,777,200円

よって、正解は1,777,200(円)です。

〔⑥について〕
(d)所得金額に対応する所得税額から、(e)税額控除額を引いたものが(f)差引所得税額となります。(g)復興特別所得税額は(f)差引所得税額に2.1%を乗じて求めます。

 1,777,200円-207,200円=1,570,000円
 1,570,000円×2.1%=32,970円

よって、正解は32,970(円)です。

〔⑦について〕
(f)差引所得税額と(g)復興特別所得税額を合計し、100円未満を切り捨てた額が(j)申告納税額となります。

 1,570,000円+32,970円=1,602,970円
(100円未満切り捨て)1,602,900円

よって、正解は1,602,900(円)です。