FP1級 2025年1月 応用編 問64

【この問題にはが用意されています。読んでから回答してください。】
 Aさん(73歳)は、甲土地とその土地上にある自宅兼賃貸マンション、乙土地とその土地上にある建物を所有している。Aさんは、個人で営んでいた機械部品製造業を4年前に長男Cさん(48歳)に承継しており、その際に事業用資産を長男Cさんに贈与している。長男Cさんは、Aさんから使用貸借により借り受けた乙土地上の建物で引き継いだ事業を営んでいる。
 Aさんは、先日、ケガで入院したことを機に自身の相続について考えるようになった。元気なうちに妻Bさん(71歳)と財産や相続開始後の手続について話し合っておきたいと考えているが、話を切り出せずにいる。
 Aさんの親族関係図、Aさんが所有している土地に関する資料およびAさんから長男Cさんに対する贈与に関する資料は、以下のとおりである。なお、長女Dさんは、2年前に病気により他界している。また、Aさんは、孫Eさん(16歳)および孫Fさん(14歳)とそれぞれ普通養子縁組(特別養子縁組以外の縁組)をしている。

〈Aさんの親族関係図〉
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〈Aさんが所有している土地に関する資料〉
  • 甲土地(Aさんが所有している自宅兼賃貸マンションの敷地)
    宅地面積:198㎡ 自用地価額:4,200万円
    借地権割合:60% 借家権割合:30%
    • 甲土地上にある自宅兼賃貸マンションは3階建て(360㎡)であり、各階の床面積は同一である(各階120㎡)。
    • 3階部分はAさんの自宅として使用し、妻Bさんおよび長男Cさん家族と同居している。1階および2階部分は賃貸の用に供している(入居率100%)。
  • 乙土地(Aさんが所有している事業用建物の敷地)
    宅地面積:100㎡ 自用地価額:2,000万円
    借地権割合:60% 借家権割合:30%
    • 長男CさんがAさんから使用貸借により乙土地上の建物を借り受けて事業を営んでいる。
〈Aさんから長男Cさんに対する贈与に関する資料〉
 長男Cさんは、2022年1月にAさんから事業を承継する際、Aさんから機械設備などの事業用資産3,000万円(相続税評価額)の贈与を受けた。その際、初めて相続時精算課税の適用を受け、贈与税を納付している。
  • 上記以外の条件は考慮せず、各問に従うこと。

問64

仮に、Aさんが現時点(2026年1月26日)において死亡し、長男Cさんに係る相続税の課税価格が6,960万円、孫Eさんに係る相続税の課税価格が1,740万円、相続税の課税価格の合計額が1億7,400万円である場合、次の①~③に答えなさい。〔計算過程〕を示し、〈答〉は万円単位とすること。
なお、孫Eさんは、これまでに相続税の未成年者控除の適用を受けたことがないものとする。

  1. 相続税の総額はいくらか。
  2. 長男Cさんの納付すべき相続税額はいくらか。
  3. 孫Eさんの納付すべき相続税額はいくらか。
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万円
万円
万円

正解 

① 1,850(万円)
3,000万円+(600万円×4人)=5,400万円
1億7,400万円-5,400万円=1億2,000万円
1億2,000万円×12×30%-700万円=1,100万円
1億2,000万円×18×15%-50万円=175万円
1億2,000万円×18×15%-50万円=175万円
1億2,000万円×14×15%-50万円=400万円
1,100万円+175万円+175万円+400万円=1,850万円
② 640(万円)
1,850万円×6,960万円1億7,400万円=740万円
(3,000万円-2,500万円)×0.2=100万円
740万円-100万円=640万円
③ 202(万円)
1,850万円×1,740万円1億7,400万円=185万円
(18歳-16歳)×10万円=20万円
{185万円+(185万円×0.2)}-20万円=202万円

分野

科目:F.相続・事業承継
細目:4.相続と税金

解説

〔①について〕
相続税の総額を求める手順は次のとおりです。
  1. 相続税法上の法定相続人となるべき人、その法定相続人による法定相続分を考える
  2. 相続税の課税価格の合計額から遺産に係る基礎控除額を差し引いて、課税遺産総額を求める
  3. 課税遺産総額を法定相続分で各人に配分する
  4. 各人の取得金額を速算表に当てはめて、法定相続分に応ずる税額を計算する
  5. 全員分の税額を計算して、相続税の税額とする
まず、法定相続人について考えます。このとき、養子のうち次に該当する者は実子とみなされる点に注意しましょう。
  • 代襲相続人である養子
  • 特別養子縁組による養子
  • 被相続人の配偶者の実子である養子
  • 養子を代襲相続する被相続人の直系卑属(養子縁組後に生まれた子)
Aさんが死亡すると、配偶者である妻Bさん、子である長男C、長女Dを代襲相続する孫F、普通養子の孫Eの4人が法定相続人となります。孫Fは養子ですが、代襲相続人であるため実子とみなされ、養子の算入数の制限を受けないことがポイントです。

この4人が法定相続人であるときの法定相続分は、妻Bが2分の1、子が2分の1です。子のうち、孫Fは養子と代襲相続人で二重相続資格者となるので、自身の子として相続分に加え、長女Dを代襲する相続分を併有することになります。長女D死亡前の状態で子が4人なので、子それぞれの相続分は「1/2=1/4=1/8」、孫Fは長女Dの相続分を引き継ぐため、各人の法定相続分は以下のようになります。
  • 妻B … 1/2
  • 長男C・孫E … 各1/2×1/4=1/8
  • 孫F … 1/2×1/4×2人分=1/4
次に、課税価格の合計額から遺産に係る基礎控除額を引いて、課税遺産総額を求めます。法定相続人の数の算定においては二重相続資格者も実子1人とカウントするため、法定相続人の数は4人、遺産に係る基礎控除額は「3,000万円+600万円×4人=5,400万円」です。課税価格の合計額は1億7,400万円なので、課税遺産総額は、

 1億7,400万円-5,400万円=1億2,000万円

この課税遺産総額を法定相続分に従って配分します。
  • 妻B … 1億2,000万円×1/2=6,000万円
  • 長男C・孫E … 各1億2,000万円×1/8=1,500万円
  • 孫F … 1億2,000万円×1/4=3,000万円
各人に配分される金額から法定相続分に応ずる相続税額を求めます。
  • 妻B … 6,000万円×30%-700万円=1,100万円
  • 長男C・孫E … 各1,500万円×15%-50万円=175万円
  • 孫F … 3,000万円×15%-50万円=400万円
上記金額の合計が相続税の総額となります。

 1,100万円+175万円×2人+400万円=1,850万円

よって、正解は1,850(万円)です。

〔②について〕
各人ごとの相続税額は、相続税の総額にその相続人が取得した課税価格の割合を乗じて得た額となります。

 相続税の総額×各人の課税価格課税価格の合計額

課税価格の合計額は1億7,400万円、長男Cに係る相続税の課税価格は6,960万円なので、長男Cの相続税額は、

 1,850万円×6,960万円1億7,400万円=740万円

実際に納付する税額は、上記の額に相続税額の2割加算を加え、未成年者控除、障害者控除、暦年課税の贈与税額控除、相続時精算課税の贈与税額控除等を適用した額となります。
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上記のうち長男Cに関係するのは「相続時精算課税分の贈与税控額除」です。長男Cは、事業用資産3,000万円の贈与を受けた際に相続時精算課税の適用を受けているとあり、この際、非課税限度額2,500万円を超過する500万円について「500万円×20%=100万円」の贈与税を納付していることになります。この額はその人の相続税額から控除されます。したがって、この100万円を控除した額が長男Cの納付すべき相続税額となります。

 740万円-100万円=640万円

よって、正解は640(万円)です。

※相続時精算課税の基礎控除が適用されるのは2024年1月1日以降の贈与なので、基礎控除は差し引きません。

〔③について〕
課税価格の合計額は1億7,400万円、孫Eに係る相続税の課税価格は1,740万円なので、孫Eの相続税額は、

 1,850万円×1,740万円1億7,400万円=185万円

孫Eさんは代襲相続人ではない孫養子なので、2割加算の対象となります。また、孫Eは16歳なので「未成年者控除」の適用があります。未成年者控除の控除額は「18歳-相続開始時の年齢(1年未満切り上げ)」に10万円を乗じて求めるため、

 (18歳-16歳)×10万円=20万円

相続税額に2割加算を行った後、未成年者控除を差し引いた額が、孫Eの納付すべき相続税額となります。

 185万円×1.2-20万円=202万円

よって、正解は202(万円)です。