FP1級過去問題 2015年10月学科試験 問45

問45

相続の承認と放棄に関する次の記述のうち、最も不適切なものはどれか。
  1. 相続人が、自己のために相続の開始があったことを知った後、相続債務の弁済のために相続財産を処分した場合、原則として、当該相続人は単純承認をしたものとみなされる。
  2. 共同相続人のうちの1人が単純承認をした場合、原則として、他の相続人は限定承認をすることはできない。
  3. 被相続人の負債額が不明であったために限定承認をした後、被相続人に1,500万円の資産と1,200万円の負債があることが判明した場合には、1,200万円の資産と1,200万円の負債が相続人に承継されることになる。
  4. 未成年者とその親権者が相続人である場合に、親権者が単独で相続するために当該未成年者を代理して相続の放棄の申述をするときには、当該未成年者について特別代理人を選任する必要がある。

正解 3

解説

  1. 適切。所定の期間内に限定承認または相続の放棄をしなかったときのほか、相続人が次に挙げる行為を行った場合、単純承認をしたものとみなされます(民法921条)。
    1. 相続の開始を知りながら、相続財産の全部または一部を処分したとき(保存行為および短期賃貸借を除く)。
    2. 限定承認または相続の放棄をした後に、財産を隠したり消費したり、悪意で財産目録に記載しなかったとき
    本肢は、相続開始を知った後に相続財産を処分しているので、単純承認したものとみなされます。
    相続人が、自己のために相続の開始があったことを知った時から3カ月以内に、相続の承認または放棄の意思表示をしないまま、相続財産である建物を契約期間1年で第三者に賃貸した場合、その相続人は単純承認したものとみなされる。2023.5-45-1
  2. 適切。限定承認は、相続の放棄をした者以外の共同相続人全員が共同して、相続開始から3カ月以内に申述することによって行います(民法939条)。1人でも単純承認をすれば、相続人全員での申述を要件とする限定承認はできなくなります。
    相続人が、相続について単純承認したものとみなされた場合であっても、原則として自己のために相続の開始があったことを知った時から3カ月以内であれば、相続の放棄をすることができる。2020.9-44-2
    相続の放棄の効力がいったん生じた場合であっても、自己のために相続の開始があったことを知った時から3カ月以内であれば、その放棄を撤回することができる。2015.9-46-2
  3. [不適切]。限定承認は、相続によって得た財産の限度においてのみ被相続人の債務を承継する方法です(民法922条)。限定承認を選択すると、申述時の相続財産目録に基づいて相続財産から債務の弁済が行われ、弁済後に残った残余財産のみが相続人に承継されます。
    本肢のケースだと、1,200万円の負債を弁済した後に残る300万円が共同相続人に承継されることとなります。
    被相続人の負債額が不明であったために限定承認をした後、被相続人に2,000万円の資産と1,500万円の負債があることが判明した場合には、1,500万円の資産と1,500万円の負債が相続人に承継されることになる。2020.9-44-4
    被相続人の負債額が不明であったために限定承認をした後、被相続人に2,000万円の資産と1,500万円の負債があることが判明した場合には、1,500万円の資産と1,500万円の負債が相続人に承継されることになる。2018.9-44-3
  4. 適切。未成年者と法定代理人がともに相続人であるときに、法定代理人が未成年者を代理して放棄を申述すると、未成年者本人の相続分がなくなる一方、代理人の相続分が増えることになります。つまり、この行為は本人と代理人の利益が相反する関係にあります。代理人が利益相反行為をすることは禁止されているので、未成年者の放棄の申述をするためには特別代理人を立てる必要があります。
したがって不適切な記述は[3]です。