相続と法律(全46問中5問目)

No.5

相続の単純承認と限定承認に関する次の記述のうち、最も適切なものはどれか。
2023年5月試験 問45
  1. 相続人が、自己のために相続の開始があったことを知った時から3カ月以内に、相続の承認または放棄の意思表示をしないまま、相続財産である建物を契約期間1年で第三者に賃貸した場合、その相続人は単純承認したものとみなされる。
  2. 限定承認をした場合、相続財産に譲渡所得の基因となる資産があるときは、被相続人がその財産を相続人に時価で譲渡したものとみなされるため、相続人が準確定申告をしなければならないことがある。
  3. 限定承認は、共同相続人のうちに相続の放棄をした者がいる場合、その放棄者を含めた共同相続人の全員が共同して家庭裁判所にその旨の申述をしなければならない。
  4. 限定承認の申述が受理された場合、限定承認者または相続財産清算人は、受理された日から所定の期間内に、すべての相続債権者および受遺者に対し、その債権の請求の申出をすべき旨を各別に催告しなければならない。

正解 2

問題難易度
肢141.3%
肢235.0%
肢36.2%
肢417.5%

解説

  1. 不適切。所定の期間内に限定承認または相続の放棄をしなかったときのほか、相続人が次に挙げる行為を行った場合、単純承認をしたものとみなされます(民法921条)。
    1. 相続の開始を知りながら、相続財産の全部または一部を処分したとき(保存行為および短期賃貸借を除く)。
    2. 限定承認または相続の放棄をした後に、財産を隠したり消費したり、悪意で財産目録に記載しなかったとき
    3年以内の建物の賃貸借は短期賃貸借に該当するので、本肢の期間1年の建物賃貸借は単純承認とはみなされません。
    相続人が、自己のために相続の開始があったことを知った後、相続債務の弁済のために相続財産を処分した場合、原則として、当該相続人は単純承認をしたものとみなされる。2015.10-45-1
  2. [適切]。限定承認により取得した相続財産は、被相続人から相続人に対して時価で譲渡があったものとみなされ、譲渡所得の課税対象となります。被相続人に譲渡所得が生じる場合には、相続人が準確定申告をしなければなりません(所得税法59条)。
    限定承認をした場合に、相続財産に不動産があるときには、被相続人がその財産を時価で譲渡したものとみなして譲渡益が所得税の課税対象となり、その後に相続人が当該財産を譲渡するときには、その時価により取得したものとして譲渡所得の金額が計算される。2018.9-44-4
  3. 不適切。相続の放棄をした者は、当初から相続人ではなかったものとして扱われるので、限定承認は、相続の放棄をした者以外の共同相続人全員が共同して、相続開始から3カ月以内に申述することになります(民法939条)。
    限定承認は、共同相続人の全員が共同して家庭裁判所にその旨の申述をしなければならないため、共同相続人のうちの1人が相続の放棄をした場合、その相続について限定承認をすることはできない。2018.9-44-1
  4. 不適切。限定承認の申述が受理された場合、限定承認者は受理された日から5日、相続財産清算人は選任された日から10日以内に、以下の方法で債権者等に対して通知しなければなりません(民法927条)。
    すべての相続債権者・受遺者に対して
    限定承認をしたこと、2カ月以上の期間を定めてその期間内に債権の請求の申出をすべき旨を官報で公告する
    すでに把握している相続債権者・受遺者に対して
    各別にその申出を催告する
    すべての相続債権者および受遺者に対しては、官報で公告すれば足り、個別に催告する必要はありません。
    【参考】相続財産清算人は、限定承認者が複数いる場合に代表して相続財産の清算手続きを行う者で、家庭裁判所により選任されます。2023年4月1日施行の民法改正により、管理人から清算人に呼び名が変わっています。
    限定承認の申述が受理された場合、限定承認者または相続財産管理人は、受理された日から20日以内に、すべての相続債権者および受遺者に対し、限定承認をしたことおよび一定の期間内にその請求の申出をすべき旨を公告しなければならない。2018.9-44-2
したがって適切な記述は[2]です。